都市経済学者のウィルバー・トンプソンは1965年に、イノベーションを起こし続ける都市というのは、大学、博物館、図書館、そして研究所などが空間的に統一された一つの大きな「コーヒー・ハウス」のようなものであると述べました。
そこで、様々な人達が衝突し合う環境を上手く構築することができれば、同じような概念を持つ人達がそれに引き寄せられて、どんどん集まって来るため、クリエイティビティには限界がないだろうとも指摘しています。
まだ日本がそれほど豊かではなかった昔は、人と人のコミュニケーションが網膜のように繋がっていましたが、経済が発展し、人々が職場まで車や電車で行くようになってくると、人と人との関わりが薄くなり、家、職場以外で人と会話するのは無機質なコンビニの店員ぐらいになってしまいました。
仮に経済力が上がったとしても、コミュニティとしての結びつきが減ってしまえば、それは衰退ですし、ビジネス的にも従来の「マーケット・シェア」を目指すのではなく、人との触れ合いがきっかけで何か売れるような「マインド・シェア」という考え方を意識することが大切になってくることでしょう。
そういった意味で、カフェとは、かつて、スターバックスCEOのハワード・ショルツが、「私たちはコーヒービジネスをしているのではない。人間ビジネスをしているのだ」と言ったように、人と人のコミュニケーションのきっかけを作るエンターテイメント業の延長のような気がしてしまいます。
例えば、都内でWired Caféなどを経営するカフェ&カンパニー創業者である入川ひでとさんは、メニューの文字をわざと読みにくい字にすることで、お客さんと会話をするキッカケを作ったり、カフェが街に馴染むために、店員が地域のゴミ拾いをするなど、カフェ自体が人々を連鎖させるハブになって、いかにコミュニケーションを復元できるかが、街づくりの大きな要因であると断言します。
アマゾンに830億円で買収されたアメリカのザッポス社は、オフィスへの入り口の数を少なくすることで、普段接点のない従業員たちが偶然出会うキッカケを作っているそうですが、街づくりにしても企業のイノベーションにしても、やはり人と人が交わらないことには何も始まらないのでしょう。
「街の活性化」、「イノベーション」などと笛を吹く前に、人々が偶然に交わる場所を作っていくことが、今、私たちの生活には急務なのです。