人間の遺伝子の数はハエの倍程度、魚やマウスと比べた場合はほとんど同じ数なのだそうです。また、遺伝情報レベルで考えてみた場合、人間とチンパンジーは98.9パーセント同じ生き物であり、人間と動物を明確にわける基準は言葉を持つかどうかだと考えられています。
北野武は、最近の流行りの曲で歌われている「もう怖くないよ」や「守ってあげる」といった歌詞はあまりに幼稚で薄っぺらく、今の言葉は死にかけているも同然で、言葉が死ぬというのは思考停止を意味するとして次のように述べています。
「『僕の世界には君しかいないだって?』馬鹿なこと言ってんじゃない。お前、インドとか中国に行ってみろ。人間が何十億人いると思ってるんだ、コノヤロウって、漫才ならツッコミを入れるところだ。(中略)『恥ずかしくねえのかい』って、作詞家に訊いてみたくなる。」
メールやLINEでは言葉だけでなく個人の気持ちまでもがスタンプや絵文字で画一的に表現され、SNSで写真をアップしても「感動」「やばい」としか書けない人も多く、これは微妙な感情や複雑な思考がより単純でわかりやすい思考に変わってしまっている証拠です。
ある工場で働いている人たちの仕事の能率があまりに悪いので、試しに国語の能力を測ってみたところ驚くほど語彙力が低く、それをきっかけに国語教育を導入した結果、国語が面白いと感じ始めた頃から仕事の効率が見違えるほど上がったという話があります。
これは、「うぜーな」「まじっすか」以外の、思考するための言葉を手に入れたことが仕事のパフォーマンス向上に影響したのでしょう。
ベネッセホールディングスが2016年に行った「第1回現代人の語彙に関する調査」では、調査対象の語彙540語のうち、知っていると答えた語彙の割合が高い人の方が年収が高いことが判明しました。
芸人で芥川賞作家の又吉直樹は、最近の日本では難しい文章や漢字の多い文章は嫌われるなど、簡単で読みやすいものが好まれる傾向について次のように述べています。
「わからないことはおもしろくないことではないんです。簡単なことを難しくしたり複雑にする必要はないですが、複雑なことを簡単にして理解するよりも複雑なことを複雑なまま理解できた時の方がよりおもしろいと僕は思っています。」
「すごい」「やばい」だけで最低限の生活を送ることはできますが、乏しい言葉を通して見る世界はとても狭く、それは豊かな人生とは言えないのではないでしょうか。