日本の15歳〜24歳の自殺率は90年代以降ずっと上がり続けており、原因の多くはうつ病や統合失調症などの精神的疾患に起因していますが、科学的に元々日本人は安心感や満足感を感じられるセロトニンという幸福ホルモンの濃度に影響を与える遺伝子の力が低いと言われています。
脳科学者の中野信子さんによると、その遺伝子の力を幸福度の感じやすいL型と感じにくいS型との組み合わせで見た場合、アメリカ人はL型が57パーセントでS型が43パーセントなのに対して日本人はS型が81パーセントもあり、S型が8割を超えるのは日本人だけなのだそうです。
これには、閉ざされた島国で人間関係が固定化されやすく、かつ集団生活を余儀なくされる稲作文化において常に他人の気持ちを気にしないと生きていけなかった歴史的環境が影響しており、その結果、日本人は世界一不安を感じやすい不幸の遺伝子を受け継いだのでしょう。
しかし、コーネル大学が人の自己評価の正確度を測る調査をしたところ、能力の高い人ほど自己評価が低いということがわかりました。
その内容とは65名の大学生にジョークを30個読んでもらい、そのユーモアを洗練された知識と機知を使って理解する能力と、その理解度に対する自己評価を学生同士で比べたものです。
調査の結果、ユーモアの理解度の成績下位25パーセント以内の人は平均して自分は上位40パーセント程度にいると自分を過大評価し、成績上位25パーセント以内の人は上位30パーセント程度にいると過小評価したのです。そして、この現象は論理的思考力や一般学力試験にも普遍的に見られました。
フィギュアスケートGPファイナルで、自身の世界歴代最高得点を更新した羽生結弦選手は、試合後に自分が何故泣いていたのかもわからないほど世界記録という重圧がとても怖かったという主旨の発言をしており、不幸の遺伝子とは不安感からもっと高みを目指して努力をする成功の遺伝子とも呼ぶことができるのではないでしょうか。
この成功の遺伝子は実際に学習能力と年収の差にも現れ、2014年のアメリカ全体の平均世帯所得が日本円で約644万円だった中で、約888万円という最も高い世帯年収だったのは、セロトニン濃度の低い不安遺伝子S型を多く持つアジア系アメリカ人でした。
そして、科学的リテラシー、読解力、数学的リテラシーの全ての分野で日本、シンガポール、台湾などのアジア諸国が上位を占めていることはOECDが行った2015年の学習到達度調査でも明らかになっており、高い学習能力や、平均より上の年収は不安遺伝子の要素が強い故にうまれた成果なのです。
イチロー選手はかつて9年連続200本安打を達成した時、毎年200本が近くたびに「重圧には弱い。まず血の気がひいていく、脈が速くなるし。しまいには吐き気をもよおすという順番なんです」と恐怖に苦しんだ経験を語っていますが、このような不安感や緊張する気持ちが日本の電車の運行時間の正確さや、日本製品の品質の高さに繋がっているのでしょう。
今の日本は自己啓発書や褒めて育てるといった教育論など、過剰なほどポジティブな考え方が良いとされています。それにも関わらず、若者の自己肯定感は低下する一途をたどっており、そんな社会に必要なのは世界一強く受け継いだ不幸の遺伝子を排除せず、その強みを活かした発想へと転換する姿勢なのです。