魚も鳥も哺乳類も、逃げているときや獲物を追っているとき、そして繁殖期と、音を使い分けて会話していますが、同じ種類でも暮らしている場所などによって「方言」があるのだそうです。
ガラパゴス諸島の海で暮らす数千頭のメスのマッコウクジラと子どもたちは、「うまの合う」仲間同士で集まって会話を互いに学習し合うために群れごとに方言があり、この方言によって彼らは群れの文化を守っているという見方もあります。
国語辞典の編纂(へんさん)に携わってきた金田一春彦氏は、著書「ホンモノの日本語」の中で、知人のフランス人神父から、「日本人はいろいろな人と、違った言葉で話すでしょう。ヨーロッパ人だったら、3カ国語くらいの言葉を使い分けているのと同じです」と言われたエピソードを紹介していました。
確かに私たちは相手によって丁寧にカジュアルにと言葉づかいを変えるだけではなく、それぞれの地元の言葉も使いこなしますし、日本をよく知る外国の人の目にマルチリンガル民族と映るのも不思議ではありません。
金田一氏によると、新しい言葉が次々と生まれる都会は言葉が変わりやすいと思われがちですが、実際はさまざまな人が集まる都会で共通言語が変化しやすいというわけではなく、また、都会の人はきちんとした言葉づかいで挨拶などができることが必須条件のようにもなっているため、都会の言葉は地方の言葉よりも変化しにくいのだそうです。
テレビの全国放送などによって地方に都会の言葉が押し寄せ、方言が使われなくなってきている中で、方言を守ることを始めた地方があります。
沖縄の伊平屋島(いへやじま)では、「日曜日は方言で話し合おう」という意味の、「日曜日はシマクトゥバで」という看板が立てられており、この運動をはじめた伊平屋小学校の当時の校長、伊差川吉明氏は、「方言は地域の文化」なのだとして次のように語りました。
「自分は伊平屋島で生まれ育ったんだという気持ち、これをしっかり持ってさえいれば、どこへ行っても大丈夫ではないか。」
昨年、お笑い芸人の認知度・関心度の高さを示すランキングで、1位にタモリ、2位に博多華丸・大吉と、福岡出身者が選ばれました。
博多華丸・大吉が言うには、包み込むような柔らかさや温かさがある博多弁には、「『何でやねん』のない文化がある」のだそうで、実際、無理につっこまないところは両者に共通しているように思えます。
世界中の言語の90パーセントは今世紀で失われるという予測があるそうです。私たちは「文化」というと普段の生活よりも芸術の世界を想像してしまうものですが、地元で交わす独特のリズムの中に受け継ぐ価値のある文化が潜んでいることに、早く、気づかなくてはなりません。