私たち人間は「プライベートは重要、でも独りぼっちは嫌」という、わがままな感情を持っています。
今までその欲望を受け止めてくれていたのは、他者と近すぎず遠すぎずの絶妙な距離感を保てる地域の「たまり場」でしたが、社会が経済や効率を第一に考えるようになったことでチェーン店や大型ショッピングセンターが次々とでき始め、それに伴って個人商店などが姿を消し始めたため、地域のたまり場は失われてしまいました。
その結果、現在の日本は、集団の中にいれば周囲に過剰に気を遣わなければいけない一方で、一歩でも集団の外に出てしまえば誰も周りのことなんて気にもかけないという、緊張と孤独を行き来するだけの社会になってしまい、 人々の逃げ場がなくなってしまったのです。
当然、そんな社会に生きていたら、誰だってたまには消えて無くなりたいと感じることはあるでしょう。しかし、それを社会に公言してしまえば「それは自分に対する逃げだ」と非難されてしまいます。
一時期、撮影して時間が経つと自動的に写真が消えてしまう、『スナップチャット』というアプリが流行しましたが、写真は“思い出を記憶するもの”という概念を根本から覆したこの自己消滅という機能は、後から記憶を掘り起こしてまで、自分や他人のことを思い出したくないという現代人の気持ちを見事に表しているように見えてなりません。
人は他人と一緒にいる時には他人と自分を比べ、一人の時は自分の過去や将来のことを考えるなど、常に自分と向き合わなければならないため、心のバランスを取るためにも自分自身の存在を消したいという感情を持つことは自然なことなのではないでしょうか。
実際、喫茶店でコーヒーを飲んでいると何とも言えない心地よさを感じるのは、店内のBGMや店に入ってくる人の足音などのノイズが自分自身を消してくれ、一時的に現実から逃れることができるからなのでしょう。
私たちは、生きづらくて、どうしようもない時代に生きているからこそ、何かあった時にそっと逃げ込める自分だけの居場所があっても良いのだと思いますし、逃げ場をうまく作ることがこれからの時代を生き抜くコツになるのだと思います。

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