自衛隊の心理幹部として、震災後など自衛官のメンタルの問題にかかわってきた下園壮太氏は、心には「子供の強さ」と「大人の強さ」があると述べていました。
「努力すれば夢は叶う」というように、知力・体力が成長しているうちは、我慢して頑張れば結果を出せるという心の強さを学ぶものですが、30代40代になると、これまでと同じように「努力すればできる」と思っている頭と「できない」と言い始める体がフィットしなくなります。
努力で伸びるという子供の強さでは前に進めなくなった大人は、現在の自分を受け入れて上手に使いこなす「大人の強さ」を学ばなければなりません。
今年70歳になったビートたけし氏も、著書「ヒンシュクの達人」の中で、大人になるということは限界を知ることとして、次のように述べていました。
「これから先、これまでの自分にできなかったことが突然できるようになるわけではないし、逆に自分にできることはだいたい見当がつくようになったわけでね。だから今後の人生に過度な期待をするってこともないんだよな。」
子供の心の強さで無理を積み重ねた末に蓄積疲労型のうつになる人が増え、人口の5~10パーセントを占めるまでになっているそうですが、子供の心を手放せば、限界を受け入れることが状況を打開する道をつくってくれるようです。
ビートたけし氏と同じ年に生まれた歌手の小田和正氏は50歳のころ、自分の昔の曲を作り直したセルフカバーアルバムがヒットしたことで、「やっぱり、もう新しいものはいらないのね、みんな」と軽く開き直り、それ以降は次のような気持ちで曲を発表してきたそうです。
「いいんだよ、同じテーマでふたつ書きゃいいじゃん、微妙に違うやつで。これは渋谷をテーマにしたら、じゃあこれは原宿ぐらいで、みたいな。(中略)同じ雲を描いて同じようでも、ちょっとだけ色調が違えばいいわけで。これが夕方5時5分に描いた絵で、これが5時7分に描いた絵だって。」
思えば、1万点を超える絵と10万点の版画を残したピカソも、晩年は落書きのような絵といわれる作品ばかりをつくり、「ようやく子供のような絵が描けるようになった」と言っていたそうです。
大人になったら、できないことを知ることができるからこそ、ゴールに辿りつけるものなのかもしれません。