愛したり、やさしくしたり、誰かを思いやると分泌されるオキシトシンというホルモンは、別名「ハッピーホルモン」とも呼ばれています。
元軍人には、戦場で苦しい経験ができたことをありがたく思っている人が驚くほど多いのだそうですが、それも、危険がすぐそこに迫っている戦地で互いに助け合いながらなんとか困難を乗り切ったという仲間意識がオキシトシンを分泌させるからです。
関係が冷めてしまってオキシトシンの分泌量が低いカップルは破綻しやすくなるそうですし、オキシトシンはより多く分泌される方がハッピーなのかと思ってしまいます。しかしながら、物事にはいつも二面性があるもので、オキシトシンの分泌量が多すぎて破綻するカップルもいるのだそうです。
オキシトシンは、仲間をつくるために必要な分泌されるホルモンですから、仲間を大切に思う気持ちと、悪い仲間を排除しようという気持ちが両方生まれることは、ある意味当然の結果なのでしょう。
強く結束した仲間がいることは生きていくことにとても重要であると、遺伝子レベルで刻み込まれている私たちは、仲間への信頼感や安心感で幸せな気持ちを膨らませる一方で、仲間意識が高まりすぎてしまうと、仲間の結束を揺るがすようなものを排除しようという黒い気持ちが膨らんでしまうのです。
しかも、様々なホルモンがある中でもオキシトシンは唯一、他人と一緒に出すことができるホルモンであり、和を乱す一人を集団で排除しようとする「いじめ」をも生み出します。
尾木ママとして知られる教育評論家の尾木直樹さんは、「いじめが多い部活がある」として吹奏楽部を挙げていたそうです。
また、合唱コンクールの練習をきっかけに、学級崩壊やいじめが起こる中学校もあるといいますから、みんなと合わせられないのが目立つ活動の中では、オキシトシンのレベルが高まりすぎて、「邪魔だから排除しよう」という動きが強まるのかもしれません。
オキシトシンはもともと、出産のプロセスや母乳の分泌を促進するために「お母さんのホルモン」として発見されたのが最初でした。
お母さんのように温かくみんなを愛するというのは難しいでしょうが、「なんか違う!」と仲間や相手を邪魔にし始めた自分に気づいたら、それは行きすぎた愛なのだと頭を冷やして、オキシトシンに振り回されないようにしたいものです。

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