アメリカの人口は世界人口の5パーセントですが、アメリカの受刑者数が全世界の刑務所にいる受刑者数において占める割合は25パーセントとなっており、アメリカ全域で公共図書館が次々と閉鎖されていく一方で、図書館つきの刑務所が次々と建設されているそうです。
「図書選定委員会」会長として、ある刑務所内の読書会に参加していた雑誌記者のアン・ウォームズリーさんは、囚人から次のような言葉をかけられたといいます。
「その場しのぎの、ただおもしろいだけの小説にはもう興味がない。著者がなにを考えてるか、どんな言葉を使ってるか、どんな語り口で表現してるかを知りたいんだ。」
アンさんの著書には、「外のやつらはおれたちがみんな化け物だと思ってるんだろ」という囚人の発言がありました。刑務所の中にいれば“化け物”が大人しくなると思われているのかもしれませんが、実際のところは、外にいたときよりも彼らは思考の上で自由になっているのかもしれません。
アメリカの公民権運動の中心的な人物だったマルコムXも、最初に本と出会った場所は刑務所の図書室で、彼の自伝には、「何ヶ月ものあいだ、わたしは収監されていることすら忘れて読書に没頭した…あんなに真の意味で自由になれたのは、生まれて初めてだった」と書かれているそうです。
テロのあったアメリカでは、一般の公共図書館の司書たちが、警察によって図書館利用者の借りた本の履歴が調べられ、ある人がイスラムに関する本に興味を示していたということだけで、捜査が特定の容疑者にしぼり込まれるようになるかもしれないと、不安を抱えていたこともあったといいます。
けれど、刑務所の図書館で一人の悪党が180度考えを変えてしまうほど、本によって人間の思想はとんでもなく大きく揺れるのですから、ほんの一時のブームだったかもしれない読書の傾向で人を判断することより、読書が生みだす「もっと知りたい」という気持ちによって、人が衝動的に罪を犯す可能性を下げることの方が、より確実な犯罪対策のような気がします。
映画化された有川浩さんの小説「図書館戦争」では、本を厳しく検閲して読書の自由を奪い、犯罪者の読書履歴を探ろうとする警察に、図書館の“自衛隊”が立ち向かいましたが、きっと、すべての境遇の人が本のあるところに通える権利は、武力を持っても守るべきというほど大事なのです。