2009年度からの5年間で地方に移住した人の数は4倍以上に増加し、地方移住者数は1万人を超えたと聞くと、人がどんどん地方へと動き始めているかのように思われます。
ところが、2015年に東京に転入した人の数から、東京から転出した人の数を差し引くと、転入した人の方が約12万人も多く、東京一極集中はますます進んでいるのだそうです。
「東京に出て、収入のいい、面白い仕事をしたい」と地方の若者は考えるものですし、実際、東京で仕事をして感じる刺激は地元では得られないものでしょう。
「移住女子」を執筆した伊佐知美さんは、地方出身者としてそういう20代の人たちの気持ちはよくわかるとしながら、次のように述べました。
「私も同じようなことを感じて都会に出た。しかし30歳になって思うのだ。『あの時求めていたものはたしかに東京にあったかもしれない。だが“今求めていること”は、果たして東京にあるのだろうか?』」
満員電車に揺られ、1時間かけて通勤する人は東京では珍しくありませんが、そういう生活を定年まで40年続けるとすると、通勤のために2万時間=人生のうちの2年3ヶ月が通勤に費やされることになります。
昨年の東京の平均年収は約605万でしたが、九州の宮崎では物価も地価も安いため、年収400万で東京の年収700万と実質的に同じくらいの生活ができるのだそうで、しかも、平均通勤時間は日本でもっとも短いとされる、たったの19分です。
東京が地方よりも額面では多く稼げるからといって東京の人がいい暮らしをしているのではなく、仕事で得る刺激よりも溜まっていく疲労の方が大きいということに、30代にもなれば多くの人たちが気付き始めるのではないでしょうか。
東京在住の人を対象に行われた2014年度の調査では、「地方への移住を検討している/検討したい」という答えが4割となったものの、東京から離れるのに一番の心配事となっているのはやはり「仕事」でした。
確かに東京の人脈も仕事のやり方も通じない地方に移住をすれば、一時的に収入が減ることは避けられません。しかし、一人ひとりの存在感の大きい地方では、東京のようにたくさんの同じようなことをしている人の中で埋もれることはなく、また、移住によって「面白い生き方をしている人」というブランドがついて注目されるようになるため、能力のある人は地方でも次第に面白い仕事ができるようになるのだそうです。
今、東京圏には人口の4分の1が集まっているのだそうで、素晴らしいスキルを持った人に出会って、学ぶ機会は多いでしょうが、面白い人が地方にいるようになれば、東京一極集中にも終わりが来るでしょう。
そもそも“サラリーマン”が一般化してから日本人は動かなくなったのであり、それ以前の日本人はブラジルにだって仕事のあるところへと移動していたのです。
人生の中で2万時間を犠牲にするのはあまりにももったいないですから、「今求めているものは東京にない」と感じた時点で動けるように、東京でしっかり能力を身に付けることだけは押さえておかなければいけません。