「火薬をつめて手作りロケットを打ち上げる祭り」というと想像するだけでワクワクしますが、埼玉県秩父市で行われているこの祭りが昨今、10万人もの人を集めるようになりました。
それは2014年に放映された深夜アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(以下「あの花」)のキャラクターが住んでいる街のモデルが秩父市で、このロケット花火がアニメの中で大きな意味を持って登場していたために、アニメファンの“聖地”となっているからです。
現存する場所を舞台としているアニメは、2000年時点では全体の4パーセントに過ぎなかったのに、2014年にはなんと、アニメの3本中に1本に実際にモデルになった街があり、今やアニメの聖地になった場所はトータルで数千に及ぶそうです。
アニメのことを何も知らない聖地の住民はというと、ある日突然増える訪問者に不安を覚えるそうで、アニメ「らき☆すた」の舞台となった鷲宮神社のある街の商工会の人も次のように当時を振り返りました。
「最初は髪の色が紫や黄色など変な色で、しかも変な歌をつけて、神社の鳥居のところで踊っているので、驚いてやばいと思った。しかしそうするうちにファンがやってくるようになったが、マナーが良い。」
知らない人が見ればただの平凡な道や長い階段が、アニメファンには架空の世界に導いてくれる鍵になり、訪れたファンたちはそのアニメのキャラクターになって演じずにはいられなくなるのかもしれません。
想像の世界は廃れないもので、ドラマのロケ地などの場合は、放映期間が終わると同時に客足が遠のくのに対し、アニメの聖地として確立した場所の場合、毎年安定した数のファンがやってくるそうです。
「あの花」の主人公は登校拒否児ですが、シナリオをつくった秩父生まれの岡田麿里さんも十代半ばの頃は学校に行けない毎日を送っており、このアニメには「アニメの美しさに、ほんのひと振りの現実」を込めたと言いました。
観光立国といって、外資系ホテルだとかカジノといったモノが注目されていますが、そこに座るだけで、そこを駆け下りるだけで、頭の中に映像と音楽が流れてくる、無限のイメージの中にある聖地に行ってみるほうが、100倍も1000倍も力を与えてくれる気がします。