「理性はすべてを説明することができるのか?」「権利を守ることは、利益を守ることなのか?」、これらは今年、フランスで大学受験生が受ける国家統一試験の中で出されていた問題です。
この問いに向き合っても「はい」「いいえ」に続く言葉が見つからない気がしてしまいますが、「哲学なくしてフランスの教育はない」というフランスでは小学生のうちから、選択問題や一つの答えが用意された問題を与えられることはなく、間違った数学の解答でさえも、美しく書かれていればバツにはならなかったりするのだといいます。
パリ在住20年の皮膚科専門医である岩本麻奈さんは、著書「人生に消しゴムを使わない生き方」の中で“正解”にこだわらないフランス人について語り、「人生には整数の加減のように『1+1=2』で正解が一つしかないことは、ごく稀にしかない」と述べました。
哲学は正解がないと言いますが、それは言い換えれば、人間の数だけ正解があるということなのかもしれません。
外国人としては最年少でミシュランの星を獲得した松嶋啓介シェフは、「日本人って理由を聞かないで、レシピだけを覚えちゃうんですよね」言う一方、松嶋さん自身はフランスでの修行中、いつもシェフに「なんでこの料理をつくろうと思ったんですか?」と聞いていたのだそうです。
日本の料理人の世界では、どこどこで働いたという経歴で判断されてしまいますが、フランスには有名シェフの元で修行をしたこともないのに三つ星をとるようなシェフが少なくありません。
松嶋さんは「独占になることのよさに、みんなもうちょっと気づいたほうがいい」と言いますし、「どのように考えるか」のない人はどれだけ技を身につけても、自分の中にしかない“答え”を表現できず、他人の答えのために便利に使われることになるのでしょう。
「あたしは論理的な女だから理にかなった服しか作らない」と言い、哲学的なものを愛したフランスのココ・シャネルは、鏡に向かって自分と対話をしていたといいます。
確かに、成功者の方法をそっくり真似るよりも、成功にたどり着くまでにあった数々の選択肢が、なぜ選ばれたのか、なぜ選ばれなかったのかを聞きながら、自分だったらどうしただろうと考えて自分の哲学を磨く方が、面白い自分になれそうな気がします。