Good Life Journal

日常生活における「疑問?」を「確信!」へ

親孝行は奉仕プレイ「目の前にいる男は自分の父親ではなく、北野武だと思え。」

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1日1食、スーパーで見切り品を買い、一日に交わす会話は店員との「お弁当温めますか?」だけという貧しい暮らしをしている“下流老人”が増えているそうです。

著書「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」で知られる藤田孝典さんの立ち上げたNPO法人「ほっとプラス」には、そういった高齢者が相談にやってきて「自分がこんな状態になるなんて思いもしなかった」と、老後の貧困は想定外の事態だと語るのだといいます。

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↑歳を取るにつれて、食事も人間関係も日に日に貧しくなっていく

昨今、週刊誌は「年金」をテーマにするとよく売れるのだそうです。

その表紙に踊る『知りたくなかった禁断の数字』『ここまで減る!』というコピーを目にする今の若者たちは、もはや当たり前のこととして、「年金支給額も低くなるし、死ぬまで働かないといけない」と考えるようになりました。

そもそも年金制度は「老後に家族からの助けを受けること」を前提につくられており、子どもの収入・貯金、保険、そして持ち家などがデフォルトで組み込まれた設定の上に年金があるという仕組みなのだそうで、子どもと別世帯で暮らしている高齢者に足りる額が支給されているのではありません。

実際に、現在の水準では国民年金の保険料を40年間払っても、1ヶ月あたりの支給額が6万6千円弱にしかならないのだそうです。

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↑今の年金システムは「老後に家族からの助けを受けること」を前提につくられている

男女ともに平均寿命が80歳を上回った“世界一の長寿国”は、一生において高齢期がものすごく長くなってしまった社会で、一昔前までは「長生きはすばらしい」と言われていたのに、「長生きは重荷」という方が人々の実感としてますます大きくなっています。

昨年105歳で亡くなった聖路加国際病院の名誉院長 日野原重明さんも、聖路加看護大学の新入生に「きみたちは何歳まで生きたいですか?」と問いかけると「80歳以上」と答えるのは学年に1人か2人で、「50代まで」というのが大半だと話していました。

長生きしたいと答えた人は、「あなた、そんなに長生きしたいの?」と笑われるのだそうです。

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↑寿命が50代までが理想。「あなた、そんなに長生きしたいの?」

年金に頼れないばかりか、全労働者の4割が非正規雇用という退職金にも頼れない社会では、家賃も光熱費もタダになり、スマホは家族割引という実家暮らしをしながら、老後のための貯金にはげむ若者が増えるのも無理もありません。

そしてその影では、大人になった子どもを養わなくてはならなくなった親が増え、「早く実家から出ていってくれ」と思う親と、「出ていく場所がない」という子どもが、お互いに不満をためながら暮らしているような状態にあるのだそうです。

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↑子どもの方でどれだけ距離を置いたとしても、おかんから子どもへの距離はいつまでも変わらない

子どもが大人になってもなぜか「親が子どもの面倒をみる」のは当たり前ですが、「子どもが親の面倒をみる」のはもう通用しなくなっています。

2010年に東京スター銀行が行った調査によると、60代において「老後の面倒は子どもに最期まで見てもらいたい」という答えは24パーセント。その子ども世代にあたる30〜40代の7割近くが、「親の財産は親自身に自由に使ってもらいたい。でも老後のことは親自身で解決してほしい」と答えていたそうで、親子がお互いに「親は子どもの手を煩わせてはいけない。自分のことは自分でなんとかしないと…」と考えていることが感じ取れます。

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↑中年の子どもがパラサイトしても、高齢の親は自分のことは自分でなんとかしないといけない

しかし、高齢者は「貯蓄がない〜貯蓄200万未満」の世帯が3割に及び、生活が苦しい方に傾いている割合は半数を超えているのが現実です。

65歳以上の親が子どもに対して本音と建前を使い分ける割合は、本音7割・建前3割といいますし、子ども世代が老後に抱える問題を察知した親世代は、年金暮らしになっても自分たちの苦しさを飲み込んで、子どもにとってベストな選択を生きるしかないということなのかもしれません。

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↑子どもは親がいるうちに貯金をする。親は貯金を切り崩して子どもを支える

江戸時代の日本では、親の罪を被ったり、親のために薬や食べ物をなんとかして手に入れようとする孝行者が尊敬を集めており、親孝行をして評判になると将軍や大名から表彰され、遠くから人が訪ねてきてサインを求められるような人気者になったのだそうです。

江戸の人々が道徳としていた「孝」という教えは、今から2500年前に孔子が見出した、「先祖を供養し、親を愛し敬い、子孫を残す」という務めですが、古代中国の人々はそれを実践することで死への恐怖をやわらげたのだといいます。

というのも、一族が途絶えない限りはその中に含まれる自分の存在も無かったことにならないため、過去にも未来にも、自分は先祖や子孫とともに生き続けていると考えれば、一個体としての自分の死は大きな意味を持たないからです。

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↑松尾芭蕉も孝行者に会うために旅をしたことがあった

今の現役世代の人々は親孝行のことを意識せずに生活していることが多いでしょうが、フェイスブックで「親孝行ってそうだったんだ!会議」を立ち上げた牛窪恵さんの調査によると、20〜40代の9割が親に多少なりとも尊敬の気持ちを持っているのだそうです。

「おかんとマー君」のコントをするようになってからマザコンと思われるようになってしまったというダウンタウンの松本人志さんも、ほとんど会わないし電話もしないというおかんへの気持ちを、著書「松本」で次のように語りました。

たまに家に帰ったオレに、生たまごを持ってかえれと言って、オレの車を走って追いかけてくる。歯のないババアは、妖怪のようだが好きなのだ。どこの母親でも、子に対する愛情は強いだろうが、うちのババアは、なんというかパワーが違うのだ。

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↑20〜40代の9割が親に多少なりとも尊敬の気持ちを持っている

生活の苦しかった小学生時代、足が痛くて眠れないと訴える松本さんを乳母車に乗せて毎日のように病院通いをしてくれた、そんなおかんと自分との間にはマザコンなどという次元のものではない絆があるのだと、松本さんは言います。

そして、「ババアが今よりももっとボロボロになったとき、今度はオレが代わりに、その乳母車を押してやろうと思っている」と述べました。

「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」(藤田孝典著)には、500万円あっても3000万円あっても、ひとり暮らしの生活費や病院代などで、あっという間にお金が底をついてしまう高齢者の話が出てきます。

しかしながら貧困高齢者の中にも「幸せな人」がいて、彼らが「不幸せな人」と明らかに違うのは、人間関係を大切にしているかどうかなのだそうです。

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↑親孝行は“奉仕プレイ”。お金や気持ちより何よりも、行動することが大事

今の人たちは「時間がない、お金がない、ぎこちない」という三大要因のために、親孝行をするのが難しくなっているのだといいます。

『忙しくて』とか『距離が離れていて』といった理由で自分が親にできることはないと考えてしまう人がいるのは間違いないでしょうし、「家を継ぐ」「結婚して子供を産む」などがプレッシャーになって、『また言われる…』と思うと親との接触を避けたくなることもあるでしょう。

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↑「時間がない、お金がない、ぎこちない」は親孝行の3大阻害要因

「子供を生め」という親を避けていたという漫画家の大日野カルコさんは漫画「ていへん親孝行」の中で、「アラフォーにもなって“頼れるのは親くらい”という底辺になって初めて親孝行の意味が見えたように思います」と語りました。

離婚をし、独身・カネなしという状態で実家暮らしをすることになった大日野さんは、外れていた網戸をはめ直したときに母親に「1人じゃできんかったわ」と喜ばれたのがきっかけで、結婚とか自立といった世間的に“立派”なことをしていない底辺な自分でも「あんなんぐらいだったらすぐできるよな」と、片付けやDIYをこなすようになります。

さらに大日野さんは、「娘が喜ぶ顔を見たい」とたこ焼きを買ってくる父親のために“子供はしゃぎ”をしたり、母親には趣味の畑の話をふって聞き役に回る“営業マン”にもなるのだそうです。

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↑「あんなんでよければできる」というのが親孝行の始まり

親と離れて暮らす人の場合、たまに帰省をしても「元気な顔を見せることがいちばんの親孝行」と思ってしまいがちで、正月だからのんびりさせてもらおう、実家にいるときくらい羽を伸ばそう、という気分でいますから、親の話しかけてくる言葉についつい、「うるさい」「後にして」などと素っ気ない返事をしているのではないでしょうか。

40年間、親孝行を研究してきたというみうらじゅんさんは「親孝行とはプレイである」、つまり親孝行は放置プレイならぬ奉仕プレイであり、心は伴わなくてもいいのだとして次のように述べました。

「偽善」という言葉に抵抗を感じる者もいるかもしれない。でも、よく考えてみてほしい。偽善を嫌がったところで、えなりかずきではない諸君は親に何をしてやれるというのか。「心ではいつも親を思っている」と主張したところで、その思いは本当に親に通じているのか。 諸君がそのつもりでも、まず間違いなく、親はそうは思ってはいない。 まずは行動。これが親孝行の第一原則だ。

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↑親孝行はプレイ。心の伴わない偽善から始まる行動でいい

とは言っても、母親はともかく父親と話すことなんてないと思ってしまうものです。

そこについてもみうらさんは、「目の前にいる男は諸君の父親ではない。北野武である」、あるいは岡本太郎でも長嶋茂雄でも誰でもいいから、とにかく父親のことを自分が憧れている年長の人物と思い込んで喋ればうまくいくといいます。

演技力とイマジネーションという、お金のかからない親孝行プレイが親を喜ばせるのは確かなようですし、前出の「親孝行ってそうだったんだ!会議」の牛窪さんが行った調査でも、「あなたは親孝行をしたことがありますか?」という質問にYESと答えていた人の親孝行の内容は、「おかんの髪型を褒めてあげる」 とか「 こまめに写メする」 といった手軽なものが半数近くを占めたそうです。

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↑「自身の恥ずかしさや照れはこの際、忘れなくてはならない」みうらじゅん

実際、金銭的に親を手助けしようとしても、40〜44歳の平均的なサラリーマン暮らしの場合、収入は568万円で支出が492万円、そこから毎月親に5万円を親に渡すと、手元には1年間で16万円しか残らない計算になり、自分の生活が苦しくなるのは間違いありません。

お金の面で現状をよくすることが難しい中でも、いい人間関係をつくるという、親を幸せにする手立てが残っているのはありがたいことですし、そこから“自立”へのこだわりもほぐれていけば、親も子も孤独に自分を追い詰めることが減っていくのではないでしょうか。

子どもがなにをどのようにしても、親が子どもにしてくれたことの総量には敵うものではなく、子どもというのはたとえ親にどんなことをしてやったとしても、親を失ったときに「後悔しない」というのは無理なのだともいいます。

それでも「あと何回、親と会えるのか」「何年、一緒にいられるのか」と考えて、ただ買い物についていくだけでも話を聞いているだけでもいいから、「できること」を探して行動を起こせば、本当に何もできなくなる日がやってきたときに、とてつもない後悔をすることだけは避けられるはずだと思うのです。

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