Good Life Journal

日常生活における「疑問?」を「確信!」へ

TOEICのスコアと国際化は全く関係ない「母国語で学問が学べる日本人は本当に幸せである。」

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日本では小学5年生から英語を正式教科とする取り組みが2018年度より部分的に実施される事が決定し、中には算数や理科まで英語で勉強する学校が出てくるなど、世界で高いポジションを得るために英語を話せる能力を開発する事が教育の最優先課題に掲げられています。

しかし、OECD(経済協力開発機構)が2015年に実施した国際学力調査において、日本人の子供たちに著しく目立ったのは国語の読解力の低下です。

実際に大学生の語彙力を調べた調査によると、5人に一人が中学生レベルの語彙力しか持ち合わせておらず、知的好奇心の表われである蔵書数が東大生の中で急激な勢いで減ってきているなど、子供たちは本や新聞どころか漫画さえ読まなくなっている今、英語の運用能力以前に母語の運用能力が明らかに不自由になってきていると考えられます。

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↑日本人にとって深刻なのは、英語力より国語力の低下

数年前、「英語化の中、逆に重要なので日本語で失礼しますという言葉が流行ってきた」というつぶやきがツイッターに出て、これをつぶやいたのは英語を社内公用語とする楽天の社員なのではないかと噂が立ち、ちょっとした話題になりましたが、このことは面白いネタとして留まるだけの話ではありません。

小説家の村上春樹さんが外国に出て小説を書きたいと思いアメリカに行った際、どう転んでも英語で小説は書けず、思考システムはどうしても日本語になって、日本と自分を分離させるのは不可能だと言っており、日本語で生まれ育った人がハイレベルな思考や知的イノベーションを生み出すのは、母語である日本語でしか成し得ないのではないでしょうか。

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↑日本語で育った人が外国語で新しいアイデアを出すことは困難

公立のすべり止めだった灘高校を日本一の東大合格者数にしたと言われる伝説の教師橋本武さんは、国語の授業で二百ページあまりの一冊の文庫本を高校の三年間じっくり時間をかけて生徒たちに読ませたといいます。

橋本さんの授業は、国語とは日本語のため日本人であればうまく使えているはずで、そんなに勉強する必要はないという思い込みを取っ払う内容に溢れており、例えば、文中に凧揚げのシーンが出てくれば実際に生徒たちに骨組みや形から何もかも自由に凧を作らせたり、寿司屋が出てくれば魚のつく漢字をすべて集めさせ、干支が出てくれば昔の時間の捉え方を学ばせました。

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↑「日本人であれば誰だって日本語を使いこなせている」は大きな間違い

これらの授業を通し、橋本さんは国語とは古文や熟語をただ丸暗記するだけの科目ではなく、人生の幅を広げる探究心の宝庫だという事を生徒たちに伝えたのです。

国語を学ぶということは、ただの言葉の意味がわかり、日常生活に間に合えばよいというものではありません。日本の歴史とともに日本語がありました。日本語のなかに日本人のすべてがあるのです。国語を尊重することは、歴史を尊重し自らの生活に誇りをもつことです。

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↑TOEICのスコアが日本より120点高い韓国はノーベル賞受賞者が生まれにくく、日本のノーベル賞受賞者は2000年以降、17名
言語学者で慶應義塾大学名誉教授の鈴木孝夫さんによると、そもそも非西欧世界において、国内で英語、フランス語、スペイン語、ロシア語といった西欧の大言語に頼ることなく、母語で日常生活から政治経済や自然科学の分野、そして幼稚園から大学院まで教育を受けることができるのは日本だけなのだそうです。

それに比べて、例えばインドではイギリスの植民地であった歴史的背景により、英語で教育を受けて英語で西洋発の学問を学ぶことでしか、インド人がエリートの道を歩む術はありませんでした。

この母語で高度な学問を学べる日本人は、精神科医の和田秀樹さんがどんなに外国語の才能に長けている日本人であっても、国語以外の言語を使うと思考力が半分ないし三割程度に低下すると示唆している通り、大変恵まれた環境に生きていると考えられます。

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↑「なかなか英語が話せるようにならない日本人」言い換えれば、日本語だけで生活できる幸せな国民

日本よりTOEICの平均スコアが120点ほど高い英語力を誇る韓国でノーベル賞受賞者がなかなか出ないのに比べて、日本で2000年以降に計17人(米国籍含む)ものアメリカに次ぐ水準で、ノーベル賞受賞者が生まれているのは、日本人科学者が英語に頼らず母国語の日本語で最先端の科学ができているからではないでしょうか。

江戸時代の蘭学医である杉田玄白はオランダ語の医学書を日本語に翻訳し、明治・大正期の作家森鴎外はイギリス文学シェイクスピアを日本語に翻訳するなど、日本は様々な外国語を日本語に置き換え、近代的な知の体系を作り上げました。

江戸時代で200年以上も続いた鎖国によって近代化の遅れた日本が明治以来わずか100年足らずで西欧諸国にあらゆる面で追いついたのは、日本語で西洋の技術や文化を理解したからです。

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↑英語に頼らず母語で最先端の科学を学べる国は世界にそれほど多くない

ノーベル物理学賞を受賞し、受賞講演会で「アイ キャン ノット スピーク イングリュシュ」と冒頭で述べて日本語で講演をした益川敏英さんは、あらゆることの基本は国語であり、物理で一番きちっとしなければならない数式ひとつとっても基本的に言葉で成り立っているもので、言葉がわからないと答えなんて導きだせないと述べています。

そう、科学の基本は国語ですよ。何にしてもすべて文章の言葉から入ってくる。読んでその世界が頭に思い浮かべられるかどうか。その力があれば、理解していける。そのあとは、吸収した知識を頭の中で思い描いて発展させていけるかどうか。

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↑数学だって、なぜその数式を立てたのかを日本語で説明する力が必要

もちろん英語は国際共通語であるため、学んだり話せるようになることは極めて重要です。

しかし、平成27年度英語力調査結果(高校三年生)の速報によると、日本の高校生の英語レベルはボロボロで、英検であれば高校卒業レベルとされる2級レベルの力を持つ高校生は全体の2パーセントしかおらず、英語教育の充実を目指せば目指すほど、子供たちの英語力が下がっているのはどうしてでしょうか。

物理学者の木下是雄さんは学習院大学理学部の教授だった時に、「理科系の作文技術」という本を書き、この本を書いた理由は生徒たちが英語で論文を書いても仕上がりがめちゃくちゃで、それは英語を知らないから英語で書けないのではなく、日本語を知らないから英語も書けないのだと気づいたからなのだそうです。

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↑勝海舟に国語力がなかったら、坂本龍馬に殺されていただろう
実際に、ワシントン大学学習脳科学研究所所長のパトリシア・クールさんが東京とシアトルの赤ちゃんにraとlaを聞き分けるテストをしたところ、生後6〜8ヶ月までの赤ちゃんでは違いは見られませんでしたが、ほんの数ヶ月後の10ヶ月頃になると違いが現れはじめたと言います。

それは、rとlの区別が重要なシアトルの赤ちゃんは聞き分けることができる一方、東京の赤ちゃんはrとlの区別が重要ではないため、聞き分けることが難しいというものです。

つまり、人間の脳は生まれてから最初の誕生日を迎える前には既に母語の言語に縛られ、外国語の音は聞き分けにくくなり、日本語が母語で日本語に囲まれて暮らしている人が英語を学ぶ際は、英語をいったん日本語に置き換えて解釈しなければならないのです。

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↑人は赤ちゃんの頃から母語に縛られてゆく

これだけ日本が英語教育に熱心になっているのは、コミュニケーションとは自分の意見を誰にでもわかるように伝える能力だという価値観の前提があって、そうなると最も多くの人間が使う英語を使える方が有利という発想になっているからでしょう。

しかし、哲学者で神戸女学院大学文学部名誉教授の内田樹さんは、本来のコミュニケーションとは、言いたいことをすらすら明確に相手に伝えるというよりは、停滞したコミュニケーションを復活させ、そこに言葉が通じるようにする能力であり、これが国語教育の最終的な目標だと考えています。

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↑国語力がないと、いつもマニュアル通りの対応しかできなくなる

例えば、司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく(三)」の中で印象的なのは、坂本竜馬が全く政治的意見の違う勝海舟を斬りに海舟の自宅を訪れたにも関わらず、海舟がいともあっさり竜馬を自宅に上げてしまうシーンです。

海舟は世界に対する自分の考えを竜馬に説き聞かせ、その話を聞いた竜馬はすっかり海舟のことが好きになり、「勝先生、わしを弟子にして下さい」と平伏したという逸話が描かれています。

勝海舟は自分を殺そうと考えていた坂本竜馬との間にコミュニケーションを立ち上げる必要があったわけですから、もし海舟が定型的な言葉や普段どおりの言葉を繰り返し話していただけなら、彼の命はなかったにちがいありません。

世界の様々な言語、思想、信条の違う相手と、どうしてもコミュニケーションが取れなくなった時に、その局面を打開する新しい言葉やアイデアを生み出せるかどうかは、日本人であれば日本語においてしか成しえないのです。

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↑国語力こそが創造力「日本語力を磨けば、英語力なんて後からいくらでもついてくる。」
国語力とは創造する力そのもので、今日に頻発しているセクハラやモラハラと言われる不祥事というものは、そもそも狭い語彙力の範囲内でしか思考したり感じたりすることのできない人同士の問題とも考えられるのではないでしょうか。

自分の言葉が相手にどう受け止められるのか、また自分に向けられた言葉には複数の解釈があるということを想像できない、まさに国語力の欠如のために起っている可能性だってあるのです。

国語の力がないと、例えば「Are you a boy or a girl ? という疑問文が実際に使われる状況を想像して、ふさわしい日本語に訳せ」という問題一つとっても、英文だけでなく日本語の出題内容が理解できないため、「あなたは少年ですか、それとも少女ですか?」という実際にあり得ない訳をしてしまうことになります。

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↑これからの英語教師は日本語教師としての役割も兼ねる必要があるかもしれない

この問題は東京大学名誉教授の行方昭夫さんが実際に生徒たちに出したものですが、1ヶ月でTOEICスコアを100点あげる方法とか、聞くだけで英語力がUPする方法といった、最小の学習時間で最大の効果を求める英語教育に慣れれば慣れるほど、定型文やマニュアルで攻略しようとし、こうなると答えや意味のわかるものだけしか受けつけないという感覚になってしまうでしょう。

漫画家のやくみつるさんは、世間で何か問題やニュースになっていることを漫画に描くとき、その問題をただ単純に、誰々がこうしました、ああしました、と描くだけでは面白くなくて、その問題とかけ離れている概念を一緒にくっつけて表現できた漫画こそに笑いが生まれると考えています。

やくさんの様に、全く関係ない事柄の隙間に意味のつながりを見出す力は、言葉を使って文脈をつなぐ国語力がないと発揮できません。

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↑わかるものだけしか受けつけなくなると、みんな同じ発想になり、世の中どんどん面白くなくなる

行方さんは「Are you a boy or a girl ? という疑問文が実際に使われる状況を想像して、ふさわしい日本語に訳せ」と問題を出した時、生徒たちに想像力を働かせて「非難を表す疑問文である」と判断して欲しかったそうです。

しかし、文章の余白や行間を楽しむ創造性が失われ、わかるものだけしか受けつけなくなると、「Are you a boy or a girl ?」を機械的に訳することしかできず、非難を表明している実際の会話シーンを想像した訳なんて出てくるはずがないのです。

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↑外国語を学ぶ土台は国語力があってこそ

今日、英語教育の重要性を声高に謳う学校はあっても、国語教育にいかに力を入れているかについて触れている学校はあまり見かけません。

日本は日本語を大切にしてきたからこそ、西欧に追いつけたのであり、その日本語が英語にとって変わられてしまうのは、自分たちの知的創造力や思考力のアドバンテージを自ら放棄してしまうのに等しいでしょう。

これから日本人が本気で国際人を目指すのであれば、英語よりもまずは母語の日本語力を磨くことが世界に通用する日本人になる近道なのです。

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