Good Life Journal

日常生活における「疑問?」を「確信!」へ

スタンフォード大学「人の悪口を言う人の方が誠実で正直である」

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トランプ大統領は大統領選で、アメリカから拠点を移すという企業に向けて「go fuck themselves(クソったれ)」と罵声を飛ばすなど、経済界も教育委員会も真っ青な悪態をつき続けていました。

その暴言の掲示板となったツイッターは、創業者のエヴァン・ウィリアムズ氏に「ここでツイッターが果たした役割は、最悪だ」と言わせるほど、たった数行で多くの人を巻き込みましたが、「バカヤロー、コノヤロー」が口癖の北野武氏は、こういったことは今に始まったものではなく、アメリカは昔から悪口を使って世界を動かしているのだと述べています。

かつて、レーガン大統領もソ連のことを「悪の帝国」と悪口を延々言い続け、ついには直接手を下さずにソ連を崩壊させたなど、その悪口による勝利の歴史を振り返れば北野氏が言うように、そろそろ日本も懐から出すものを「金」ではなく「ふざけるな!」にする必要がありそうです。

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↑悪口は金よりも人を動かす

アマゾンで「ありがとう」と検索すれば何十ページにも渡る関連商品のリストが表示されるような現代で、「〈悪口〉という文化」を執筆した歴史学者の山本幸司氏は、大学の講義で学生に知っている悪口すべてを書き出すように頼んだところ、5つ書ければ上々で、せいぜい2つか3つしか出てこないというのが大半だったと述べています。

けれど悪口を言わないのが日本人の血なのかとあきらめることはありません。

昔の江戸っ子たちは本気で怒ると、拳よりも口喧嘩の押収で決着をつけたもので、タンカを切って悪態をつき、言われた方がさらにタンカを切り返して、そのタンカに対する野次馬の掛け声や笑い声の大きかったほうの勝ちということで相場が決まっていたそうです。

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↑悪口で野次馬を魅了したほうの勝ち

300年弱にもわたる長期政権と鎖国によって閉ざされた江戸の社会では、「栄誉の質入」という慣習もありました。

それは、借金をする際、担保を入れたり保証人を立てるかわりに、「返済できなかったら自分のことを悪く言って笑いものにしても構いません」という文言が書かれるというもので、当時、悪口が優れた武器であり、誰にでも悪口を言われるような部分があることを示しているようにも思えます。

そんな江戸の世で花開いたのが落語ですが、「笑点」を生み出した落語家の立川談志は弟子たちに、「自慢」「愚痴」「悪口」の3つは心の老廃物として誰にだってあるものであり、それが面白く言えるようにならなければいけないと説いていたそうで、同じく落語家の桂歌丸氏も、悪いことを言ったって気にすることはないのだと、次のように語りました。

「他の連中も日本のどこかで、あたしの悪口を言っていますよ。仲がいいのに悪口ばっかり。これが『笑点』の長続きの秘密かもしれません。」

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↑自慢、愚痴、悪口は心の三大老廃物

それと同時に歌丸氏は、ほめられて成長が止まってしまう人を随分見てきたと言います。

そして、注意することが根本に水を注いで肥料を与えることとすると、ほめるということは「根っこを断ち切るのと同じこと」で、ほめ言葉というのは時に残酷でおっかないものなんだと語りました。

今の世の中、「ほめて伸ばす」とか「怒らない育児」、そして「感謝の習慣」など、ポジティブワードによる言霊論に比べると、悪態をつくというのは明らかに劣勢で、決して誇れるものではないのでしょうが、悪い言葉が禁止されて社会が漂白されると、人々が栄養を取り込むための根っこはどんどん断ち切られてしまうのかもしれません。

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↑ほめ言葉は根っこを断ち切るおそろしいもの

糸井重里氏が「なにか失言の候補があると、ピラニアの群れのように寄ってたかって食い尽くそうとする」といった日本の社会では、私たちは発言の自由よりも、発言のリスクだらけの日常にすっかり馴染んでいて、フィルターを通したような言葉を発するのが上手になっていますが、私たちはもう、どこかで心の老廃物を吐き出さないとバランスが取れなくなり始めているのではないでしょうか。

「shit」や「fuck」などにまみれた悪態三昧の父親の発言をツイッター「@shitmydadsays」に残していったジャスティン・ハルバーン氏は、そのアカウントで280万人のフォロワーを獲得することになりました。

実家を離れたことで、裏表のない父親とは対照的に、決して本心をさらさない人間がいかに多いかということを学んだハルバーン氏は、失恋を機に久しぶりに実家で暮らすようになると次のように感じたそうです。

「父さんと多くの時間を一緒に過ごすうちに、ぼくは父さんのウソを言えない頑固な性格や、はちゃめちゃな発言に幾度となく救われた思いをした。」

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↑ウソのない悪口に癒される

そのはちゃめちゃな発言のひとつには、誕生日に何が欲しいかと聞かれた父親が次のように返答したものがあります。

「バーボンかスウェットパンツだ。それ以外ならゴミ箱に直行だからな。…もっと発想豊かな品物を贈りたいだと?発想はいらないから、おれにバーボンとスウェットパンツをよこせ。」

医学の世界にいた父親のこういった発言を次々と公開してしまって、さらにそれが出版されようとしていることを懺悔しようと、ハルバーン氏が意を決して父親に打ち明けると、父親は、「他人にどう思われようとおれの知ったことではないし、おまえは出したい本を出せばいい」と一蹴したそうです。

そつなく無害な言葉を並べるほど、人は弱く、面白くなくなることは落語を見ても、ハルバーン氏のツイッターを見ても明らかですし、もしかしたら私たちが普段、フィルターにかけて捨ててきた乱暴な言葉のほうが、実は表に出す価値のある言葉だったのかもしれません。

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↑面白い人には「言わない約束」などない

イギリスのキール大学の心理学者リチャード・ステファンズ氏は、奥さんが出産中にあり得ないほど「ののしり言葉」を言い放ったことに対し、産婦人科医たちが「まったく普通のことですよ」と言ったことからヒントを得て、十数年に渡って「ののしり言葉」の効果についての研究を続けてきました。

たとえば、氷水に手をつけるという実験では、「ののしり言葉」を言ったときのほうが平均で40秒も長く水に手をつけていられたそうですし、運動をする際には「ののしり言葉」を吐くほうがスタミナも筋力もアップすることが示され、最近では「悪態をつくことによって、ヒトの力が強くなる」という見出しでメディア大手に取り上げられるまでに悪口の力は注目されています。

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↑悪い言葉が人に力を与える

「乱暴な口を聞くのは不良」というお決まりのパターンも覆されそうで、アメリカのマリスト大学の心理学チームは、語彙が豊富な人ほどさまざまな「ののしり言葉」を知っており、知的であることやコミュニケーション能力があることは、乱暴な言葉を多く並べられることと相関性があると示しています。

実際、イギリス英語の悪口を集めて辞典にしたアントニー・ジョン・カミンズ氏は、英語を学習してきた日本人がイギリス人同士の会話を理解できない理由を次のように述べていました。

「私たちの低俗な英語は聞きなれないでしょうが、この下等な英語を理解できるようにならなければ、 レベルを上げることはできないのです。」

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↑悪口を使い分けられることが「できる人」の証

アメリカでは、トランプ大統領への異議を唱える民主党議員たちの言葉にまで「ののしり言葉」が頻繁に登場するようになり、民主党全国委員会のサイトでは悪口を前面にプリントしたTシャツも販売されているのだそうで、この傾向に注目したメディアは、「民主党は『ののしり言葉』を使った話し方を定着させるつもりだ」と報道していました。

ただし、「ののしり言葉」を研究し続けてきたリチャード・ステファンズ氏によると、「ののしり言葉」がただの口癖になっている人には、「ののしり言葉」の効果は薄いのだそうで、トレンドに乗っかって息を吐くように悪口を発する人が増えるのも考えものです。

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↑ののしり言葉が新常識となる

一昔前の日本の村社会では、人々が悪態を言い合う「悪口祭」や「村対抗 悪口合戦」が全国各地で行われていました。

その一例として、京都祇園の八坂神社で大晦日の夜に行われる祭りでは、神前のともし火が消されて暗くなり、参詣者が互いに顔を見ることができなくなると、左右に分かれて言いたい放題に悪口を浴びせ合ったと言います。

たとえその声を聞いて誰が言っているかわかっても、争ったり恨んだりしないというルールがあり、「おまえは正月三が日のうちに餅が喉に詰まって葬儀屋を呼ぶことになるぞ」など罰当たりな悪口の数々が飛び出しますが、そこには「一年のけがれを落とす」という宗教的な意味が込められていたそうです。

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↑悪口祭は人々の精神を浄化する

日本の悪口祭には、悪口に勝ったほうがその年に恵を授かるという占いの要素もあったそうですが、イヌイットやアフリカ、アジアの少数民族たちの間では、何か問題が起こると行われる「歌決闘」という悪口歌の掛け合いが、法律や警察に代わる解決の手段でした。

たとえば相手のあまりの傲慢さに腹が立った場合、「足を高く上げて上を見て歩くあなたを知らない人はきっといないだろう。」(私たち女の前で威張り散らすあなたのことは皆知っている)といった歌にするなど、歌決闘では比喩の面白みによって聴衆を味方につけて相手をいかにやり込めるかというところにポイントが置かれていて、当人たちも歌を掛け合っているうちに腹の虫がおさまってしまうものなのだそうです。

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↑悪口によって裁かれ、解決される社会

戦後最年少での直木賞受賞となった「何者」(朝井リョウ著)では、就職活動中の主人公が、表面上仲良くしている周囲の人間についてツイッター上に毒を吐き続け、それを知っていたその周囲の一人に、「あんたは、誰かを観察して分析することで、自分じゃない何者かになったつもりになってるんだよ。(中略)いい加減気づこうよ。私たちは、何者かになんてなれない」 と言われ、立ちすくんでしまいます。

ビッグデータが人事でも使われるようになると、人々はネット上の情報で選別されるようになり、SNSに載せる表向きの情報はこれまで以上に印象のよいものばかりになっていくということです。

コンピュータがいいところばかりを集めて点数をつける人間関係の中で、悪口は互いに交し合うものではなくなり、文化もルールも関係ない裏の世界で誰でもない自分になって負の感情を吐き出し、心のバランスを取るものへと代わってしまったのかもしれません。

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↑悪口がただ吐き捨てられていく社会

戦後、GHQに「従順ならざる唯一の日本人」と言われた白洲次郎は、聴く人の心理にお構いなく悪口を言ったため批判も多くあったそうですが、「自分の良心はきれいだと思ってるから、人が何言おうと平気なんだ」と述べていました。

実際、スタンフォード大学やケンブリッジ大学などが共同で行った研究では、悪態をつく人のほうが誠実で正直だという結果が報告されています。

思えば、東日本大震災のとき、死者の数で見出しを飾るメディアに対して北野武氏が、「人の命は、2万分の1でも8万分の1でもない。そうじゃなくて、そこには『1人が死んだ事件が2万件あった』ってことなんだよ。」と述べたことはまだ記憶に新しいですし、前出の悪態三昧の父親は、ハルバーン氏が小学生のときに実験結果を捏造したことに激怒し、反省文を書かせてクラスで発表させた後、次のように言ったそうです。

「おれはおまえがウソつきのクソ野郎だと世間の人たちに考えてほしくはないんだ。おまえは絶対にそんな人間じゃない。」

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↑悪い事実より、よく見せようとする嘘のほうが罪深い

北野武氏は、いかにセンスのいい悪口で逆襲できるかを世界が見ていると言いました。

近い将来、もう少し賢くなったコンピュータは、耳にたこができるくらいに溢れかえる耳障りのいい言葉よりもセンスのいい悪口を評価するようになるでしょうし、センスの悪い陰口をする人を見抜くようにもなるでしょう。

面白い悪口を集めるにはエイプリルフールのように「悪口の日」でも設ければいいのかもしれませんが、とりあえずは封印してしまった「ふざけるな」「バカヤロー」を口に出してみるだけでも、嘘のない棘のある自分になったほうが、いい人間への近道だと、なんとなくわかるような気がするのです。

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