Good Life Journal

日常生活における「疑問?」を「確信!」へ

ファーストフードで、時間を節約して少しは時間に余裕が生まれましたか?どんどん忙しくなってますよね?

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2018年3月卒業予定の大学3年生を対象にして行われた「就職したい業種ランキング」で最下位となった業種は、「小売・外食」だったそうです。

コンビニや外食チェーンなど、“全国チェーンの店長”という肩書きに誘われて社員になったものの、商品の補充やアルバイトのシフトくらいしか権限がない上に、将来的な出世も見込めず、固定給でどこまでも残業させられ。人件費の節約に使われる「名ばかり店長」の問題が、次々と暴かれています。

裁判を起こした「名ばかり店長」のある男性は、37日連続勤務したこともあり、レジで「ありがとうございます」というときに呂律がまわらなくなるほど自分が壊れていたと言いました。

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↑「Karoshi(過労死)」は英語の辞書にも掲載されるようになった

そういった中で人件費アップは免れず、しかも人が集まらないという問題を抱えるようになってしまった外食業界の企業は、人を手に入れる手段としてM&Aを行い始めているということです。

また、本来であればサービスを受ける側である客まで、注文のために列に並び、受け取った食べ物をテーブルまで運んで、ゴミを捨ててトレーを片づけるというように、機械的に働くことが当たり前に期待されるようになりました。

そうしてマニュアル通りのオペレーションと流れ作業が進んだ店では、レールから外れないように無個性化された、機械のように固くて冷たい人間関係が生まれてしまうのも無理はない気がします。

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↑従業員も客もとにかくマニュアル通りに動かすシステム

先進的な文明・技術のないアジアやアフリカは劣っていて、そこに住む人を「かわいそうだ」とする先進国の見方に意義を唱え、著書「野生の思考」で知られるクロード・レヴィ=ストロースは、日本の築地市場を訪れたときのことを「夢のような日本の思い出」と語るほど、深く感動していたそうです。

野菜も海産物も様々な食べ物が売られている様子を見て、レヴィ=ストロースは、築地市場のものの豊富さや多様さ、そして並べ方の美しさは世界の博物館にまさるものがあると言いました。

そんな築地市場の人たちは自分が食べる側になると、「味噌汁に卵を落として」など、「こんなものが食べたい」というリクエストによってどんどん独自のメニューを生み出していき、市場の飲食店の個性まで豊かにしているといいます。

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↑築地のラーメン屋には、硬めの麺の「強めん」、もっと硬い麺の「針金」など色々な注文がくる

例えば、ある築地の喫茶店の食事メニューは“トースト”しかないのだそうですが、レア・ミディアム・ウェルダンといった焼き加減から、耳を落とす・二分割・三角切りなど、焼き方と切り方の組み合わせでざっと100種類はできたのだそうです。

牛丼チェーン吉野家の築地本店にも、「つゆだく」などのよく知られた裏メニューのほか、脂身を多くした「トロだく」などいろいろあり、市場の人の要求から吉野家の定番裏メニューが生まれたのかもしれないとも言われています。

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↑お金だけ払ったら会話もなしに目的が達成できてしまうお店は、もう飲食店として成り立たない

もともと“市場”というのは“戦争”と対になっているようなもので、戦争が終わり、敵味方関係なくモノが持ち込まれる市場は、平和をつくり出す空間として存在するものです。

終戦後の日本でも、主食は政府が公平に分けるということで配給制になっていましたが、1945年にとれた米は配給に必要な量の23パーセントでしかなく、配給が1ヶ月近く滞ることもあり、人々がヤミ市に集まるようになりました。

今年の「住みたい街ランキング」(関東版)で1位になった吉祥寺には当時、魚や得体の知れない食料品、衣料品、そして偽物の砂糖や醤油などを売る露天が集まったヤミ市があり、そこを起源とする「ハモニカ横丁」では今も、一枚の屋根の下、ハーモニカの吹き口のように小さな店が隣り合って、雑貨屋から飲み屋、和菓子屋にカレー屋まで軒を連ねています。

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↑日本には戦後のヤミ市から発展した“横丁”があちこちに残っている

「吉祥寺『ハモニカ横丁』物語」の著者、井上 健一郎さんがこの横丁にある人気店を訪れ、隣に居合わせたオヤジさんに職業を聞くと、「えっとねえ、人身売買の方をちょっと…」と冗談でかわされ、次のように言われたそうです。

あのね、お兄ちゃん、そんなこと聞かなくてもいいじゃないの。ここで出会ったのだもの。外で何をしていようが、またここで会えればそれでいいじゃない。それにしてもお兄ちゃんたちみたいに若いのに横丁みたいなところを愛してくれる若者に出会えて、今日はいい夜だよ。

井上さんはこのオヤジさんに「横丁での作法を教わった気がした」と言いますが、敵味方関係なくそこにいる人と関わるというのは、固定せずに雑多にものが集まっていた市場の名残なのかもしれません。

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↑横丁では隣と肩がくっつき路地にお尻がはみ出してしまう

空襲で壊滅状態だった渋谷にも露店が集まっていて、その後、規制によってあちこちに移動させられた露店街のうちの一つが、現在、スクランブル交差点からすぐのところにある「のんべい横丁」です。

東京都に約110坪の土地を割り当てられて「のんべい横丁」に移ることになった38軒の屋台の店主たちは、くじ引きで場所を決めたのだそうで、焼き鳥屋「鳥福」の店主、村山茂さんは当時の状況を振り返り、次のように語りました。

それだけ仲がよかったということです。誰も文句なんか言わないし、誰かがいい場所を当てたら“よかったねー ”と声を掛ける。弱い者同士みんなお互いさま。助け合ってやっていこうという、これが横丁の文化です。

2坪の空間を客が譲り合いながら焼き鳥を頬張るという「鳥福」の店内でも、「お金さえ払えば会話もなしに目的が達成できちゃうっていうのは、横丁の文化にはないし、あっちゃいけない」ということです。

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↑ファーストフードで食べる時間を削って、少しは忙しくなくなりましたか?

15分で食べ物をかきこんで、店がどんどん回転するというように、食事を早く効率よく済ませようという暮らしについて、「スローフードな人生!-イタリアの食卓から始まる-」(島村 菜津著)には、次のような言葉がありました。

救世主のごとき面持ちで巷に溢れ返っているのが、レンジでチンするだけの冷凍食品、お湯に投げこむだけのレトルト食品、お湯を注ぐだけのカップ、コンビニエンス・ストアのお弁当、デパートのお惣菜に、よりどり見取りのファーストフードである。ところが、それだけ急いで、食べる時間まで節約しておきながら、誰もが『忙しい、時間がない』と口にしているのはどういうことなんだろう。

同じようなものが増え、それを商品とする店同士が競争し、他社より早くと先を急ぎ、人の心に注意を払って気遣うことがなくなれば、人々が平和的な時間や空間を失うのは当然なのかもしれません。

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↑効率化が進むほど、人はなぜか忙しくなり、心をなくす

かつて世界の数学者の誰もが手に負えなかった難問を解き、世界の名だたる数学者を「Okaとは、団体名でなく、個人の名前なのか」と驚愕させたという岡潔博士は、子どもたちが孤立して競争し合い、競争相手が病気になれば喜ぶというようになった学歴社会の姿を、次のように描写しています。

子供は夜、家でテレビも見ないで勉強している。母は別室でテレビを見ている。翌朝子供が学校へ行くため家を出ようとする時、母はテレビの筋書きを教える。子供は学校へ行って相手にその筋書きを、さも自分が見たかのように話す。相手は安心して、その夜は自分もテレビを見る。子供はそのすきに、自分だけ勉強する。

競争の中に巻き込まれれば人が温かさを失うのは無理もなく、岡博士は「人の多い所で競争させるのはよくない」というわかりきったことがなぜわからないのだろうと嘆きました。

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↑自分以外の人間は自分を追い越す敵でしかない

生き残りをかけた競争の世界で、人がどんどん人間味を失っていくという時代の流れに逆行し、それこそ「人間味以外に売りはない」という場もあります。

今となっては“さびれた”という言葉がつくことが珍しくないスナックですが、実は日本全国に10万軒もあり、その数は減りつつあるものの居酒屋の数よりも多いのだそうです。

スナックというのはどこもだいたい同じ内装で、カラオケも同じ会社のものを入れており、基本はウーロンハイとビールで酒にも大きな特徴はありません。なぜそのスナックに人が集まるかというと“人柄”でしかないのです。

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↑もうメニューすら、飲食店には必要ないよ

一般的にスナックには人生経験豊富なママやマスターがおり、お客は若者から年配者、社長にサラリーマン、そして肉体労働の人と間口が広く、スナックの中ではうれしい話も悲しい話も、仕事の愚痴も、打ち明け話も、自由にやりとりされます。

サントリー文化財団の助成を受けてスナックを研究した「スナック研究会」の横濱竜也さんは、行きつけのスナックでたくさんのことを打ち明けて、励まされたり叱られたりしながら救われてきたと言い、「率直にいって、私が人生に対して肯定的になれたのは、このスナックがあったからこそである」と述べました。

興味深いことに、町に図書館が建つと犯罪数が減るのと同様に、スナックの多い地域には犯罪が少ない傾向があるのだそうで、地域の犯罪に対してスナック約7軒で図書館1軒分の影響を持つことがわかっています。

スナックは図書館のない財政的に厳しい町に多いそうですが、スナックが誰でも受け入れる公共の場のような働きをすることで、地域社会に平和をつくっている部分もあるのかもしれません。

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↑昼間はさびれていように見えるスナックは夜の公共の場。スナックがあると犯罪が減る

昨年続編まで映画化された漫画「深夜食堂」では、店のメニュー表に「豚汁定食、ビール、酒、焼酎」しかありません。

あとは勝手に食べたいものを注文してくれれば、できるものだったら作るよ、というのが店主の営業方針で、漫画には「タコに切った赤ウインナー」「昨日のカレー」「丸ごと1本のキューリのぬか漬け」など、それぞれの注文に紐づいたお客の話が詰まっています。

お客にはボクサーやストリッパー、泥棒にオリンピック選手までいるのですが、ふらっとやってきたそれぞれのお客が好きな食べ物を注文すると、そこに居合わせた別のお客との間にちょっとした会話が生まれ、人を変えてしまったりするのです。

そのストーリーを見ていると、外食の世界で削ぎ落とされてきた人間臭さが、本当は人が一番求めているものだったのではないかという気がしてきます。

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↑“玉ねぎ王子”、“お茶漬けシスターズ”など深夜食堂では数々のあだ名が生まれる

外食という場が、お金を払うという以前に、お互いに注意を払う場であれば、くちばしを削いで成長ホルモンをあたえて大量にケージ飼いした鶏や、フライドポテト用に長く切れるように品種改良したじゃがいもと同じように、お金のために都合よく人間をゆがませてしまうシステムも成り立たなくなるのではないでしょうか。

効率を良くして楽をしたいと思うのに、なぜか楽にならないと多くの人が感じ始めている今の社会、安く買い叩かれていたワインのあり方を変えたワイン農家の主人は、「食べて、飲んで、そこに友がいる。人生には一番、大切なことじゃないかね」 と言いました。

例えばいつもと違うメニューを注文した時に「どうかしたのかな?」と気にかけてくれた店の人の言葉一つで、気持ちが楽になることがあります。“外食”がもっと人の温かさで平和をつくる場になれば、外食産業に人が集まり、社会に欠かせないものになっていくような気がします。

野生の思考

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