Good Life Journal

日常生活における「疑問?」を「確信!」へ

和食が世界遺産に登録されたのは喜ばしいことではなく、和食が失われつつあるという悲しいこと。

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東京医科歯科大学が350人の子どもを対象に味覚について調査をしたところ、酸味、塩味、甘味、苦味のいずれかの味を認識できなかった子どもが107人と、全体の約3割を占める結果となりました。

味覚を認識できなかった子どもたちはジュースやファストフードのような味の濃い食べ物を好むことも明らかにされており、中には、ごはんを食べても「味がない」と不満を漏らす子どももいて、伝統的な和食が持つ繊細な味を掴めなくなってきている様子が伺えますが、これは何も子どもに限ったことではありません。

味を感じることのできない「味覚障害」の患者数は1990年には14万人だったものが2004年には24万人と1.7倍に増え、その後も患者数は順調に増加し続けていると言います。

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↑ファストフードのようなハッキリとした味でなければ認識できない子どもが増えている

視力や聴力に関しては定期的に検査が行われるため、自身の視力・聴力がどれくらいのレベルかは多くの人が把握していることでしょう。

一方で、味覚の検査を行う機会がないように、自分の味覚を感じ取る力がどれくらいのレベルなのかということを気にしながら生活している人はほとんどいないのが現状です。

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↑視力や聴力は悪くなれば気づくが、味覚は知らないうちにどんどん麻痺していく

味覚が鈍感になればなるほど味の濃い食品を選んでしまい、その結果、余分な糖分や塩分を摂取することに繋がってしまうため、味覚と病気は密接に関係していると言われていて、実際、糖尿病のリスクを抱えている人は甘味を感じにくく、高血圧のリスクを抱えている人は塩味を感じにくいことが分かっています。

近年、サプリメントや健康食品の市場が年々拡大しているように、ダイエットも兼ねて健康に気を使う人が増えていますが、本当に健康に気を使うのであればサプリメントや健康食品に頼るよりも、まずは自身の味覚を鍛えることから始めなければなりません。

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↑食品会社が身体によい薄味のものを提供しても売上は伸びない

冒頭で述べたように、日本では味覚障害に陥る人が増えてきています。

高齢になればなるほど味覚障害に陥る可能性は高くなるため、少子高齢化が進む日本では味覚障害の患者数が増加してしまうのは避けられないのかもしれません。しかし、何よりも問題なのは、若者たちの間にも味覚障害が増えているという点です。

私たちの体は新陳代謝によって細胞の入れ替えが行われていて、味覚の情報を得る「味細胞」と呼ばれる細胞は体内でもっとも新陳代謝が活発と言われており、およそ10日間で全ての細胞が入れ替わります。

一般的に、若い人ほど新陳代謝は活発ですから、この「味細胞」についても新しい細胞へと問題なく“更新”されるべきなのですが、最近の若い人たちはこの“更新”がうまくできないために味覚が衰えてしまっているのです。

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↑健康なはずの若者たちの味覚に異常が起きている

実は、味細胞を作るには「亜鉛」というミネラルが必要で、私たちは亜鉛を大豆、肉や魚介類などさまざまな食品から取り入れることができると言います。

しかし、日頃から栄養バランスを考えて食事をとる若い人たちは少なく、知らず知らずのうちに体は亜鉛不足の状態になっていて、さらに、普段気軽に口にしている加工食品に含まれる食品添加物は亜鉛の吸収を妨げたり、体外へ排出してしまうという亜鉛の天敵でもあるのです。

日本の食卓の60パーセント以上が加工食品という事実もあり、現代の若い人たちが亜鉛不足になってしまうのも無理はありません。

亜鉛が体内に不足している状態では新しい味細胞は生まれませんから、味覚が正常に機能しなくなり、その結果、若者であっても味をうまく把握できないなどといった味覚障害に陥ってしまうのです。

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↑こんな新鮮な魚を食べたのは一体どれくらい前だろう

仮に、食品会社が体にいいものを提供しようと味の薄い商品を生産したところで、濃い味に慣れてしまっている消費者から、瞬時に「美味しい」と思われる可能性は低く、売り上げが伸びないのは目に見えています。

食品会社はできるだけ売り上げを伸ばすため、そして店頭に並べられるチャンスを得るためにも、消費者が好むような味の濃い商品を生産しなければなりません。

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↑消費者の舌が喜ぶような味を提供しなければ、売上をあげることはできない

例えば、コンビニエンスストアは品物の回転が速いのが特徴ですが、1日の売り上げが数個でも下回ってしまえば撤去が検討されるという仕組みになっているため、食品会社が生産するものは揃って旨味調味料や食品添加物が加えられた味の濃いものに偏ってしまうのです。

2005年に食育基本法が制定されて以来、多くの自治体が食育に取り組むようになったことで社会全体でも“食”に関心が寄せられるようになりましたが、「野菜を食べましょう」「朝ごはんを食べましょう」「バランスの取れた食生活をしましょう」と呼びかけるばかりで、「濃い味付けを控えましょう」などといった味覚に関する呼びかけは見かけません。 

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↑和食が世界遺産に登録されたのは喜ばしいことではなく、和食が失われつつあるという悲しいこと

食品開発に携わる人によれば「最近の若い人は上品な鰹だしでは物足りない」のだそうで、 和食や和風ダシが流行しているものの、伝統的な鰹だしでは味が薄く感じられるため消費者には喜ばれず、濃い目に味付けをする必要があると話しています。

ミシュラン3つ星にも選ばれている和食料亭「菊乃井」の三代目主人、村田吉弘さんは、2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことについて、これは決して喜ばしいことではなく、日本の伝統的な和食が失われつつある証であると次のように苦言していました。

日本の子どもは、何が和食で、何が洋食か分からなくなっている。『ハンバーグは日本の食べ物か?』『カレーは?』いろいろ言うわけです。遺産にしなければならないほど、私たちの食というものは、見直さなければならない段階にきていると。

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↑もう何が和食で何か洋食であるかが分からなくなってきている

ラットを使った実験では、子どもの頃にカツオだしの粉末が含まれた餌の味を経験したラットは、大人になってからもカツオだし風味の餌を好む傾向にあることが明らかにされ、京都大学の研究グループは、子どもの頃の味覚の記憶や体験は大人になってからの食の嗜好に影響すると結論付けました。

実際、チェーンレストランなどのメニューを見てもハンバーグやオムライスなどが並んでいるように、お子様ランチのプレートに乗って出てくるものとほとんど変わりありません。明らかに莫大な人数の大人が外食で子どものような楽しみを求めていることは一目瞭然でしょう。

味覚を鍛えることは多種多様な食べ物を経験することでもあり、現代の日本は食が豊かになっているにも関わらず、味覚の経験は徐々に乏しくなっているのかもしれません。

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↑フランスでは嫌いな食べ物でも最低10回〜15回はチャレンジさせる

食育の意識が高いことで知られるフランスには「プレジール」という喜びや楽しみを表す言葉があり、フランス人は食をプレジールと表現するそうで、例えば、アメリカ人はチョコレートケーキの写真から「罪」という言葉を連想するのに対し、フランス人は「お祝い」という言葉を連想すると言います。

ダイエットや健康のことを考えて食事を抜いたり、食事代わりにスムージーなどの飲み物だけで済ますことはなく、昼食には2、3品の料理を、夕食には3、4品の料理をワインと一緒に楽しむのが“食を楽しむ”フランス流の食事風景なのです。

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↑食べることが一種のエンターテイメントになっているフランス

このような大人の食に対する真剣な姿勢は子どもへの食育にも影響し、1歳になるずっと前から「ありとあらゆる食材の味を経験させる」食育が始められます。フランスでは食育はしつけの基礎となり、人生のル ールについての指導の入り口と考えられているのです。 

そのため、フランスの子どもは野菜や果物はもちろんのこと、フォアグラやにおいの強いチーズまで何でも食べるのですが、これも食育への真剣さと根気強さの賜物なのでしょう。

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↑食育こそ、親が子どもにしなければならない教育である

と言うのも、フランスの心理学者と栄養士たちは、子どもたちが新しい食べ物を喜んで食べるようになるためには平均で7回はチャンレンジさせる必要があるとアドバイスしていて、多くの育児書でも10回から15回はチャレンジさせることを推奨しています。 

アメリカの社会心理学者、ロバート・スーザイアンス博士は、何かを好きになるためには接触する回数を増やすことが重要であるとし「単純接触効果」という概念を提唱しましたが、食べ物を好きになるには試してみるのが一番早いということなのかもしれません。

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↑嫌いなものでも最低10回〜15回はトライさせる

フランスのほとんどの小学校では「味覚の授業」も行われていて、フランスの味覚研究所が開発した教育方法に従い、食べ物をただ単純に味わうだけでなく、食べるという経験が、味覚、視覚、嗅覚、触覚、聴覚から成り立っているということも学んでいます。 

料理ばかりでなく、いつもいちばん良い食器やグラスを使いながら食卓の風景を飾ると言いますから、フランスでは食事の空間そのものも、味わいの一部であると認識されているのでしょう。

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↑しっかりとした食育から意味のある食卓がつくられる

また、フランスでは買い物や料理を作る時間以外に朝食に15分、ランチに1時間弱、そして夕食に1時間以上かけるのが一般的で、実は、味覚を司るには唾液の量も関係しており、食事を楽しくゆっくりと取るようにすると唾液の分泌が活発になり味覚の感覚も増すことが分かっています。

幼少期の頃からたくさんの種類の食べ物にチャレンジする機会が与えられていること、食事の際にはその空間や雰囲気も楽しむこと、そして食事の時間が十分に確保されていることなど、フランスは社会全体で味覚を育てるための環境を整えているのです。

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↑本当に美味しいものは、最初はそれほど美味しくない

日本でも、昔は食育というものを意識せずとも今のフランスに負けないくらい、子どもにはいろいろな味を経験させていて、例えば、通常子どもが嫌がる苦味をさんまの内臓や山菜を食べさせて教えてきました。 

もちろん、一度教えたところで子どもは苦いものが嫌いですから、自分から進んで苦いものに手を出すことはありません。

ただ、子どもが好むものばかり食べさせていてはいつまでたっても味覚の幅は広がらず、味覚が幼稚なまま年を取っていくことになるため、経験させることが味覚を鍛える第一歩として考えられていたのです。

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↑子どもの味覚の幅を広げるのは大人の役目

食品の研究を続ける伏木亨さんは「本当においしいものは、はじめはそれほどでもない」と話しており、大人になってから「美味しい」と思うものを増やすためには幼少期に多くの味を経験していることが必要だとし、次のように説明していました。

大人が食べている多くのものは、子供時代にはそれほどおいしいものではありませんでした。(中略)子供のころには嫌々食べていたものだったのが、いつの間にかおいしくなり、無くてはならないものになるのです。そういう地味めなもののよさが大人になってわかるためには、幼少期からの体験を介して意識の中に早くから住み着いていることが必要だと思われます。

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↑子どもの頃の食の経験が大人になってからの食の嗜好を左右する

確かに、食育はできるだけ早い段階から開始することが理想とされています。しかし、食習慣が学んで得たものなら学びなおすのは可能なはずであり、子どものみならず40代や50代であっても味覚力を鍛えるこは可能なのです。

東京四ッ谷にあるレストラン「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーシェフ、三國清三さんは、味覚を鍛えるには食事のたびに味を検索する意識を持つことが重要で、やはり、味覚力を鍛えるには年齢制限はないとし、次のように述べました。

五つの味を意識するだけで、それぞれの味が検索できるようになるのです。“苦味”という味がある、と一度意識したら、“あ、これが苦味か、こっちにもあっちにも苦味がある”と感知できる。そうやって食べているうちに、味を検索する習慣がついて、味覚は開花していきます。早く気づくに越したことはありませんし、早い方が開花はスムーズですが、四十歳からでも六十歳からでも八十歳からでも百歳からでも、意識さえすればいいのです。

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↑味覚力を鍛えるのに年齢制限はない

「食」という字は“人が良くなる”と書くように、食事は人を健康にするはずのものですが、現代では逆に人を不健康にしてしまう可能性も秘めています。

食べることで私たちの生活は支えられていると言っても過言ではなく、味覚を鍛えることは食べることを学び、そして最終的には日々の生活を支えることにもつながってくるのです。

そう考えれば、繊細な味を捉える味覚力を持つことは食事だけでなく、人生そのものを豊かにしてくれるということに気づくのではないでしょうか。

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