Good Life Journal

日常生活における「疑問?」を「確信!」へ

日本人がいつもイライラしているのは、誰にも甘えることができなくなってしまったから。

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個人主義の考え方が強い欧米諸国では、子供を早く自立させるために生まれてからすぐに夫婦とは別々の部屋で寝かせることが一般的になっています。

一方の日本では、乳幼児を育てる家庭の9割以上が一つの部屋に家族で川の字になって寝る習慣があり、さらに子供が大きくなってからも同じ部屋で寝る習慣が続く家庭も少なくなく、アメリカの著名な文化人類学者であるW・コーディル・プラース氏によれば、そのような習慣がある先進国は世界でも日本だけなのだそうです。

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↑子供が親にべったり甘えられる先進国は世界中で日本だけ

添い寝の歴史を振り返ってみると、日本は明治維新、戦後、そして現代のグローバル化を経験するなかで伝統的な文化や生活習慣を次々と捨ててきましたが、時代がどんなに大きく変化しても添い寝の文化だけは、今も昔も変わらずに日本社会に残ってきました。

そう言った意味で子どもの頃から甘えることを認められてきた社会の中で育ってきた日本人は誰しもが甘えたい欲求を抱えていると言えるはずです。

それにも関わらず、最近は周囲に頼らずに自立して自分の身は自分で守ることを良しとする風潮が世間で広まってきていることもあって、甘えることが否定的なニュアンスで捉えられることが多くなりましたが、甘えることは本当に悪いことなのでしょうか。

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↑他人に甘えることを前提に作られている日本社会では、個人主義は絶対に上手くいかない

よく考えてみれば日本人の生活の中には他者に甘える場面が多く見受けれられます。

例えば、家庭の中では親子がお風呂で背中を流し合ったり、母親に耳かきをしてもらうことは一般的なことですし、会社の中でも一昔前までは男性社員が女子社員にお茶を入れてもらうといったことが当然のように行われていました。

このように本来は自分自身で出来ることをあえて他の誰かにやってもらうことで日本人はわざと甘える空間を作り出し、誰かに世話をしてもらったり逆に世話をしたりすることで相手と信頼関係を作ってきた民族だと言えるでしょう。

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↑日本人は自分でできる事を他の誰かに世話してもらうことで関係性を築いてきた民族

それに歴史を振り返ってみると私たち日本人は長い間、どこかしらの組織に属して常に何かに頼りながら生活してきたのです。

例えば、現代では社会を管理するための単位は「個人」ですが、1947年に民法改正で家制度が廃止されるまでは、家長であるお父さんを中心とした「◯◯家」といった家族単位で管理されていました。

そしてこの家制度が廃止になって家族という共同体が壊れた後も、会社がこれまでの家族の役割を担うようになり、社宅や結婚出産を祝う制度などを見ればわかるように、日本企業の姿はまるで家族の形をそのまま大きくしたようなものだと言えるため、日本社会は何かに甘えることを前提に作られていると言っても過言ではありません。

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↑日本人は昔から家の中では家族に、家の外では会社に甘えながら生きてきた

ところが1990年代初頭にバブル経済が崩壊したことで日本経済が右肩上がりに成長しなくなり、終身雇用などの日本型経営が行き詰まりを見せ始めたことで、次第に誰かに頼るということが否定的なニュアンスで捉えられるようになりました。

これまでは家族の疑似形態とも言える会社に身を任せていれば良かったのが、今ではいつリストラされるか分からない時代になったため、自分の面倒は自分でみると言う意識が世間で強まり、その結果、自立や自己責任といった個人主義的な考え方が一般的になったのです。

その結果、もともと他人に対して極端に気を遣う日本人はさらに気を遣うようになり、人間関係に関して不必要に神経質になっている人が増えてきています。

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↑いきなり自立を求められた日本人はどう生きればよいのか分からなくなっている

例えば、現代の親は子どもが友達の家に遊びに行くときには訪問先への配慮から必ずお菓子を持たせ、親が働いていて子供に何も持たせていないと、その晩になって「今日はうちの子が突然お邪魔してすみません。お菓子までご馳走になって・・・」とわざわざお礼の電話までするようになったのです。

このようにただ子供が友達の家に遊びに行くだけなのにも関わらず、極端に気を遣うようになってしまったため、最近の親は子供が友達の家に遊びに行ったり、逆に遊びに来られたりすることを快く思わなくなりました。

しかしよく考えてみれば昔はそんな気遣いをする親はいなかったのではないでしょうか。子供同士で約束もせず突然呼び鈴を押すことは当たり前でしたし、遊びに行った先の親もいつものことだからと気を遣ってお菓子を出したりすることもなかったはずです。

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↑昔の親はよその子供に気を遣うことはなかったし、遠慮する子供もいなかった

さらに大人だけでなく、子供も同様に誰かに甘えたり世話になることが下手になっているのかもしれません。

明治大学文学部の教授である齋藤孝氏によれば、親や年上の兄弟におんぶしてもらう体験というのは誰かに対して甘えることと似ているため、上手に背負われることができる子どもは甘え上手なんだと言います。

上手に背負われるには力の抜き方と入れ方のバランスが重要なのだそうですが、試しに斎藤氏が経営している小学生の塾で子ども同士でおんぶさせてみると、なんと全体の約2割の子供がまともにおんぶが出来なかったのだと言い、それは小さい頃に親に「おんぶ!」と言って甘えることができなかった何よりの証拠です。

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↑日本社会から甘えが失われれば失われるほど、日本人は他人に対して不寛容になる

東京心理教育研究所の所長でカウンセラーとしても有名な金盛浦子氏によれば、人は自分が誰かに甘えられない状態では他人の甘えを受け入れることができないため、誰にも甘えることができない現代人は他者に対して極端に不寛容な状態になっていると言います。

確かに、今やニュースで一番の話題となるのは社会問題ではなく芸能人の不倫や政治家へのバッシングばかりです。ネットに関しても、普通の高校生のちょっとしたイタズラが大炎上したりするなど、現代人は他人に対してあまりにも不寛容になってしまいました。

しかもただ単にバッシングするだけでなく、炎上した高校生の自宅住所、学校、アルバイト先、そして親の名前まで洗いざらいに調べ上げられ、それをネット上に公開するなどして社会的に生活できなくなるまで叩くことが珍しくなくなっています。

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↑会ったこともない人のちょっとしたイタズラですら徹底的に叩く現代人

しかしバブル経済が崩壊するまでの日本社会は今よりもずっと寛容だったと言う人は少なくありません。

例えば、昭和の名総理として有名な田中角栄は本妻以外の愛人との間にも家庭を持っていたのにも関わらず、そのことで地位を脅かされたことはありませんでしたし、ロッキード事件で逮捕された時も角栄を擁護する人は少なくありませんでした。

恐らくそれは日本社会がもともと表と裏の二つのルールで動いていて、表のルールとしては責任を求められていた一方、裏のルールとしては「本当はダメだけど・・・」という、いざという時は大目に見たり、助けたりする人情を大切にする文化が根付いていたからではないでしょうか。

これは政治家だけでなく一般の人にも当てはまることだと言えます。悪いことをする人は今も昔も一定数いたに違いありませんが、昔は「今回だけは大目に」と許していたものが今ではそれがなくなり、それが表面化したものが現代における炎上の正体なのかもしれません。

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↑甘えが許されていた頃の日本では、多少のことは大目に見ることが当たり前だった

こうして見てみると社会から甘えの精神が失われたことで、日本人は経済的には自立することができるようになった一方で、精神的にはまだまだ自立することが出来ていないことがよく分かります。

近頃では甘やかすと自立できなくなるという考え方が一般的になったものの、本当のところはしっかりと甘える場所があると自然とそこから自立できるようになるのではないでしょうか。

それは子供を見ていればよく分かることです。例えば、どれだけ甘えん坊で常にだっこを要求するような子供でも、小学校に入るくらいには恥ずかしがって自分で歩くようになるように、上手に甘やかしていれば自然と自立するようになるのです。

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↑互いに甘え合う関係を捨てた日本人は自立したのではなく、ただ孤立しただけ

他人に甘える事と自立する事は表裏一体の関係にあるため、甘える感覚が分からないと、自立する感覚を身につけることはできないわけですが、実は日本の伝統的な家の構造というのは甘えと自立の両方を学べるように作られています。

と言うのも、家族が集まって子供が親に甘えられる「居間」という空間と、来客をもてなすために使われる少し緊張感のある「座敷」という空間がハッキリと分けられていたため、家の中に甘えと自立が共存していたのです。

ところが現代の住宅は二階建てでそれぞれの子供に個人の部屋が与えられたことによって、親子が甘えあう居間(リビング)がほとんど使われなくなり、甘える空間が家庭の中から失われてしまいました。

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↑家の中に甘えられる空間があるからこそ、座敷では自立した気持ちを持つことができる

日本人は甘えを取り除いてなんとか自立しようとしてきました。しかし結局のところ現代人は自立したのではなく、ただ孤立しているだけなのではないでしょうか。

近年お盆や正月に帰る場所がないという人が増えているのは、日本人が自立と称して「甘え」を中心とした人と人との関わりを次々とお金に変えていったからなのかもしれません。

例えば、昔は母親が忙しかったら祖母や近所の人が子供の面倒を見てくれていたし、引越しする時にも友人や親戚が手伝うのが当然でしたが、時代が変わって周りに甘えられなくなるにつれて、それらの無償で行われてきた行為がベビーシッターや引越し屋などのサービスとして売られるようになったのです。

しかし、これまで相互扶助の社会でお互いに甘えてきた関係がお金に変換されることで、個人がお金と交換できる無機質なパーツになってしまったため、他人がかけがえのない存在だと思わなくなり、次第に孤立していくことになりました。

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↑無償で行われてきた甘え合いの関係をお金に変え続けた結果、日本人は甘える場所を失った

京都大学名誉教授であり心理学者としても有名な故・河合隼雄氏は日本人が甘えの精神を捨てて安易に個人主義を導入したことに対して、過去の良い点を分析しないままに西洋的な価値観を直輸入すれば社会に歪みが生まれるとして、次のように述べていたと言います。

(今の日本は)言うなれば、日本家屋の基礎はそのままにして、その上に洋風のビルを建てたようなものである。理想的な建物ができあがったと思った途端、そこには深い亀裂が生じていた。

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↑甘えることが前提の日本社会に個人主義を当てはめれば絶対に無理が生まれる

現代の日本社会は昔から続いてきた慣習を捨てることで成立していると言えます。そうすることで現代人は自立して自由な生活を手に入れようとしてきたものの、実際は孤立して不自由な生活を送っている人の方が圧倒的に多いというのが現実ではないでしょうか。

人は独立して自由を求める傾向と、保護や依存などの甘えを求める傾向の二つを持っているのだそうで、どちらか一方でも欠けてしまうと精神的に不安定になってしまうと言われているため、自由と甘える場所の両方を持っている人だけが本当に幸せになれるということなのでしょう。

落語家の初代林家三平さんの妻で作家としても有名な海老名香葉子さんは以前こんなことを言っていました。

正々堂々と、子供に世話になって死んでいきますよ。一生懸命に育てた子が母を粗末にするはずがない。いざとなったらお金は大事でしょうが、老後の貯蓄以上に情の貯蓄に勝るものはありません。

つまり日本人が幸せになるためには、図々しいくらいに誰かに甘える度胸と誰かを思い切り甘えさせてあげる心の広さを取り戻すしかないと言うことなのでしょう。

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