Good Life Journal

日常生活における「疑問?」を「確信!」へ

赤字の地方鉄道は確実に人々を幸せにする「生かすも殺すも地元住民しだい。」

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たとえば「車が住宅に突っ込んだ」というようなニュースを聞くと、思わず高齢者の運転だったのではないかと疑ってしまうほど、65歳以上の運転者が起こす事故は珍しくなくなりました。

交通事故の件数は、ここ10年で半数以下にまで減っていますが、65歳以上の運転者においては右肩上がりで増え続けており、全体の2割以上を占め、公共の交通アクセスの乏しい県では3割を超えたという報告もあります。

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↑交通事故の加害者の、3人に1人が65歳以上になりつつある

84歳になった高木ブーさんは、「子供たちを楽しませる仕事をしてきたお父さんが、家の前の小学生の通学路で事故を起こしたら・・・」と娘に言われてしまい、免許を返納することを決心したそうです。

免許返納に行くと、銀行の金利優遇やボウリング場の割引など数々の特典がついてきたことに驚いたそうですが、それでも免許がなくなるということの難しさを次のように語っていました。

俺のように都内に住んでいれば公共の交通網が発達しているからまだ平気だけど、地方では電車もバスもない地域はあるからね。『高齢者が免許を返すことが正しい』とは一概には言い切れない部分はある。

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↑免許を返納させるのに必死な行政の人たちが正しいとは言い切れない

5歳から9歳までの子供における死因の1位は不慮の事故で、その後34歳になるまで不慮の事故は死因のトップ3にランクされており、私たちは車の運転につきまとう被害者ならびに加害者になるリスクを知らないわけがありません。

実際、人が同じ時間移動するとしてどれだけ事故に遭遇するか、ほかの交通手段と比較してみると、自動車による死傷者数は鉄道の355倍にもなったのだそうです。

たしかに団塊の世代が65歳以上になった今、車のハンドルを握らない高齢者を増やすとともに、交通事故が減ることを目指すのはよいことではあるのでしょう。

けれど、事故の防止にとらわれて、彼らが免許を持たなくてはならなかった理由を考えず、彼らにとって必要かどうかもわからないボウリングの割引や銀行の特典といったことにお金を使うばかりでは、問題の解決にならないのは目に見えています。

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↑欧州では路面電車が市民の足だが、日本の地方の鉄道会社の7割りが赤字

全国の75歳以上の高齢者で、子供と同居している人を除き、最寄の駅・バス停までの距離が500メートル以上あるところで暮らしている人の割合は、少なく見積もっておよそ6人に1人に及ぶそうです。

地方の若者の休日のすごし方は、「イオンモールに出かける」か「家でドラマ・映画を見る」かになっているそうですが、車社会となった街では、車で行くロードサイドのショッピングモールやホームセンター、電気屋、そしてファミリーレストランなどが客を集め、個人店はどんどん姿を消し、高齢者も商業施設に車で出かけざるを得なくなっています。

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↑高齢者も若者と同じように車で出かけて買い物をしなければならない

日本よりも一足早く車社会に突入していたヨーロッパとアメリカでは、人々が排気ガスまみれの街を離れて郊外に住むようになったあと、街中は職を求めてやってくる難民や貧困層の人たちが滞在するようになり、極度に治安が悪化した街中では人が歩くことさえできなくなりました。

そこで1990年代からは、人々が安心して歩ける街を取り戻すために一度は「車の通行の邪魔だ」と廃止に追い込まれた路面電車を次々と復活させており、たとえばフランスでは、3車線でも渋滞していた道を、桜やモクレン、ナラの木などの並木と路面電車で埋めて、車の入れない街をつくっています。

人は自由に移動する権利があるとして「交通権」という法律を整備したフランスは、従業員9人以上の企業から交通税を集め、これによって、人口20万~30万の都市(日本でいうと長野県の松本市や福井県の福井市などの大きさの都市)に、「水平に動くエレベーター」ともいうほどにバリアフリーで歩行者が気軽に乗り降りできる路面電車が走るようになったのです。

日本で「路面電車」というと懐かしい昭和のイメージがぬぐえませんが、ヨーロッパでは現代版・路面電車が国境をまたいで地方都市同士をつなぎはじめています。

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↑人が自由に移動する権利を守るため、道路ではなく路面電車に税金を使う

「線路は続くよ、どこまでも」のように電車に乗ればどこでも行けるというイメージがある日本ですが、実際、交通で移動する人が鉄道を使う割合は25パーセント、それが車社会の地方に行けば10パーセントを下回り、全国で100社近くあるという小さい地方の鉄道の7割が赤字に苦しんでいて、2000年度以降に廃止された路線を距離であらわすと、東京から兵庫県の姫路市までに及ぶそうです。

一方で、新しい新幹線は着々と増え、北海道では北海道新幹線が開業すると、地元民から「新幹線もいいが、これでは利用者の少ない地方ローカル線切り捨てだ!」と叫ばれました。

そして今、北海道の鉄道地図には、電車で行けない空白の地域が拡がっています。

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↑普通に運営していたら日本の地方鉄道は絶対に赤字「工夫次第で生かすも殺すも地元住民しだい」

なくなってはじめて沿線の人々は、「鉄道があったほうがよかったね」と気づくものなのだそうです。

路線の長さがたった6.4kmという銚子電鉄を「ぬれ煎餅を買ってください!電車修理費を稼がなくちゃいけないんです!」と訴えて、鉄道の維持に成功した銚子電鉄の向後功作さんは、地方鉄道は「なくなってもしかたのないもの」ではないし、地方都市は「さびれてもしかたないもの」ではないと述べています。

東日本大震災で被災した三陸鉄道で社長をつとめていた望月正彦さんも、震災後まだ鉄道の復旧が決まっていなかったころに、岩手県田野畑村の田野畑駅で、地域の人たちが総出で線路の草むしりをしていたのを見て、人々の鉄道への愛着の強さが運行再開へのエネルギーになったと言いました。

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↑広島でも、原爆の落ちた僅か3日後、残った3両で電車が運転を再開していた

鉄道の鉄が「金を失う」と書くように、電車はただ走らせるだけでお金がかかり、利益が減っても経費が減ることはあまりなく、その上、地震や台風などの自然災害の多い日本では、ひとたび車両や線路が大きなダメージを受けると廃線に追い込まれることも少なくありません。

これからわずか40年後の日本では、高齢者が人口の40パーセントを占め、人口が半分になってしまう県も続々とでてくるといいます。

そういった流れの中で、何もしなければ赤字から逃れられない運命にあるローカル線の場合、鉄道存続の課題は会社だけでどうにかできるものではないのが事実で、生かすも殺すも地元住民しだいということです。

実際、宮崎県では2005年に廃線となった高千穂鉄道を、ノンフィクション作家の高山文彦さんを社長として地元住民が役員を務める新会社が、「高千穂あまてらす鉄道」として復活させました。

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↑廃線になった鉄道の線路をもらって、地元住民が鉄道会社を始めた

通常の車両がなかった高千穂あまてらす鉄道が用意した車両は、軽トラックを改造した“スーパーカート”で、一度に30人までしか乗せることができず、軽トラックの後ろに乗るような風を感じられる車両は爽快でありながら、ちょっとの風雨で運休しますし、あまり宣伝もしていないそうです。

けれど今では、県内外や海外から年間2万人以上が訪れるようになったそうで、かつて東洋一の高さを誇った渓谷をわたる鉄橋の上でスタッフがシャボン玉を飛ばすと、怖さにおののいていた乗客が歓声に沸くといいます。

役員のひとり、56歳の桐木敏隆さんは、「使命感や責任感というより、楽しいから続けたい」「ぜいたくに遊ばせてもらっている感じです」と話していました。

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↑自分たちの街を自身でしっかりとコントロールすれば、予約率24倍の電車も生まれるのだ

和歌山電鐵の貴志川線は、沿線の学生や農家などが毎月1回集まって会議をしていて、その会議をしきっているのも地元のお寺のお坊さんだそうですし、兵庫県の北条鉄道は無人駅の駅長をしてくれる地元のボランティアを募っており、そのひとつの駅では、パン屋の駅長が電車がくるとパンを作る手を止めて、電車が見えなくなるまで手を振ってくれるそうです。

関西を何度も訪ねては電車に乗り、取材を重ねたという黒田一樹さんは、その著書「すごいぞ! 私鉄王国・関西」の中で、関東の大手私鉄がコーポレートスローガンを「あんしん」や「笑顔」など特に個性のない言葉で飾っているのに対して、関西の南海電鉄は「愛が、多すぎる」というスローガンを発表したことを絶賛しました。

地方では、線路脇で手を振る子供に運転士が汽笛を鳴らして答えてくれることは珍しくありませんし、電車に対して感じる愛着は、地方のほうが根強く、時には強烈にもなる気がします。

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↑和歌山電鉄の貴志駅は猫のタマを駅長にして、駅舎の屋根まで猫耳にした

予約の倍率が平均24倍という、JR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」をはじめとして、地方を走る数々の電車をデザインしてきた水戸岡鋭治さんは、鉄道の仕事をはじめたころはまだ、車両をデザインしたら終わりと思ってやっていたそうです。

ところが電車から外を見るとホームがあって駅があり、その先は町へと広がっていていろいろなことが気になり始め、「駅ビルをやりましょう」と駅のデザインもするようになり、今では街のデザインをやってみたいと思っていると言います。

街を守るためには、街を自分たちで運営しているんだという意識の強い住人が必要ですが、日本はこれまでそういう教育をしてこなかったとして、水戸岡さんは次のように述べました。

これは国の川、これは県の川とか、これは県の道、これは国の道とかそういう教育をしていますから。自分自身の街をコントロールできないっていうことですよね。国立公園というと『国の公園だから触っちゃいけない』とたいていの人が思っている。

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↑電車は運転士がいなければ走らん。けどな、運転士さんだけでは電車は走らないんだ

かつてガンジーは、インドは国として独立するだけではなく、「70万の村それぞれが主権国家になるべき」と言ったそうです。

19世紀までのインドは、イスラム教とヒンドゥー教の政権争いの戦争があったり、イギリスなどの大国がやってきたりしましたが、そのときどきの君主が村から米などを搾取することはあっても、村を管理する力まではなく、村自体はあまり変わらずにあったといいます。

インドほどの大きさがないとはいえ、日本の公共交通機関も、国や県がお金を出して作ったのだとしても、そんな遠くの、顔も知らない組織がきちんと運営できると期待するのは難しいのですから、地元の人が自分のものだと考えて管理するくらいが丁度いいのかもしれません。

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↑ガンジー「私たちは自分の手の使い方を忘れている」

2010年に公開された映画「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」では、東京のサラリーマンだった主人公が子供のころの夢だった島根県のローカル線一畑電車の運転士になるという物語で、その中に一畑電車の社長の言った次のような言葉があります。

電車は運転士がいなければ走らん。けどな、運転士さんだけでは電車は走らないんだ。関わっている人、ここにいる、ほらこの人たちと、ここにはいないけど、いまも線路と電車のことを見守っている人たちもあわせて、全員で、みんなで電車を走らせてもらってる。

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↑自分も含めた地域みんなの力で電車は走る

今から約100年前、阪急電鉄創業者の小林一三は、重工業が急速に発展し、工場の煤煙によって50メートル先も見えないところもあるような場所に住む大阪市民に、「出生率10人に対して死亡率11人という衛生状態におかれた都会生活は心細くはないか」と投げかけ、田んぼの中に電車を走らせて、沿線に全国初となる分譲住宅、そして公園にデパート、さらに宝塚歌劇団まで築き、一代で町をつくりだしました。

そうして郊外に出た世代から生まれた私たちには、自分たちが高齢者となったとき、すれ違う人の2人に1人は高齢者という社会が待っていて、それでも自分らしい暮らしをあきらめないために、歩いてなんとかなるようなローカル線のつながりをもっと必死で考えなければならないのかもしれません。

結局私たちはみんな、人生のはじめと終わりで必ず、何も運転できない、一駅先へ行くこともままならない交通弱者になることを避けられないのですから。

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