Good Life Journal

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法隆寺の宮大工、西岡常一「どないしてもいい世界からは文化は生まれません」

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2015年に「手すりの高さが隣の棟とずれている」という住民の指摘から建物が傾いて建っていることが明るみに出た横浜の「傾きマンション」は、今年3月までに全4棟に暮らす合計705戸が引越しをして、これから4年かけて新しいマンションに建て替えることになりました。

ある住人は、「ズレをもどしたら終わりというわけにはいかない」と言いましたが、震度7にも耐えられるといわれていたのに、実際ははっきり見てわかるほどの欠陥がある建物に住んでいたという事実は決して他人事ではなく、近い将来、多くの人が抱える問題になっているかもしれません。

というのも、どれも同じような資材と構造でできた住宅が増えていくうちに、大工が急激に「サラリーマン化」しています。

きちんと木を選定するところから丈夫で美しい家を作る技術を持った大工は全体の3パーセントに満たないというほど、腕のよい大工に当たることが稀になっており、そういった中での新築物件の購入はもはやギャンブルだとも言えるでしょう。

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↑腕で勝負できる大工はたったの3パーセント でもビルは建つ

「いいぜ、楽して稼げて」と職人としての仕事を捨て、プレハブを組み立てる作業員へと変わっていった大量のサラリーマン大工たちが昔の大工の水準にかなう仕事をできなくても、今の日本の法律では、はじめの設計さえ問題なければ、建物の欠陥で責任を問われるのは建ててからの10年間に限られます。

建物を長持ちさせることを前提としていない、そして倒壊しても誰も責任を問われないという法律が住人にもたらす結果について、早稲田大学名誉教授で建築家の尾島俊雄氏は次のように振り返りました。

「東日本大震災のときあれだけ建物が壊れたのに、阪神淡路大震災のときあれだけ建物が潰れて6千人が亡くなったのに、建築家は一人も責任をとらなかった。」

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↑地震で家が倒壊するのは当たり前なのだろうか?

設計した建物で事故が起きれば建築家が牢屋に入るというイタリアでは、建築を学ぶ学生のうち、新しい建物の設計者になる人は2~3割程度で、残りは修復保全のための技術者になるといいます。

一方で、戦後復興の波に乗り、早く多く増やすことを優先して住宅を大量生産した結果、あるものを工夫して使うより新しく材料を買ったほうが安いという、ちょっと考えるだけでも理不尽な法則ができてしまったのが日本の建築業界です。

古い建物は直すよりも取り壊して量産住宅に建て替えるほうが安いという日本の市場では、「建物の世話をする」ような修理の仕事をメインにしていては大工は食べていけませんから、多くの大工は住宅が余るようになってしまった今でも建てることにこだわり、「建物を産み捨てる」のをやめるわけにはいきません。

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↑家を建てる人より家を世話をする人が多い方が理にかなう

法隆寺のための職人の村に生まれた宮大工の西岡常一氏は、数百年のサイクルで数年縛りの大きな修復作業がやってくるという流れの中で、仕事のないときは田畑を耕して暮らし、一度仕事に入ると、建物の300年後の姿を思い描きながら、自分の手がけたあとに地震によって崩れでもしたら、腹を切らねばならないと思って仕事をしていたと言います。

1350年を経てようやく大修理をした法隆寺が千年以上も美しくいられたのは、木が木材になった後、地面に生えていた時間と同じくらいの時間を、第二の命として生きることができるからであり、永く山に生きた木が建物となったあともできるだけ永く生きられるようにするために自分がいるのだとして、西岡氏は次のような言葉を残しました。

「千年のいのちを長らえてきた檜(ヒノキ)は材にしても千年はもたせなければならない。千年の木を千年使えば、その間にふたたび木を植え、育てていくことができるのだから、資源としての木を失うことはないのです。」

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↑森で千年生きた木は、木材になっても千年生きる

実際、重要文化財に指定されている建造物の90パーセントを木造が占めている一方で、ここ数十年で建てられたコンクリートの高層ビルの老朽化がもう話題になっているというのは紛れもない事実です。

古代木造建築は年を重ねるほどに価値を増すのとは反対に、寿命が50年のコンクリートでできている今の都市の寿命は50年だといわれています。

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↑ついこの間まで半永久的といわれていたコンクリートは50年しかもたない

第二次世界大戦で焼け野原を経験し、阪神大震災で5千人の焼死者が出て、日本人は「木の家は燃える」というトラウマからなかなか抜け出せず、鉄筋コンクリートなどのより近代的な素材に強さを期待してしまうのでしょうが、西岡氏が木材の300年後を見ていたように、木材となったヒノキの強度は築300年くらいでコンクリートや鉄に勝る最強の建材になるそうです。

実際に、鉄の梁と木の梁の燃え方を比べた実験では、火災が発生した15分後、鉄の梁はアメ状に溶けてしまったのに、燃えた部分を炭にして内部に酸素を通しにくい状態を作り出した木の梁は50パーセント以上の強度を保って建物を支えており、鉄骨の3倍以上も火事に強いことが示されました。

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↑樹齢千年のヒノキは築300年で強度がピークになり、千年経つと切られたときの強度にもどるという

ただし、木材といっても一般に出回っている家によく使われているものは、残念ながら樹齢50年に満たない木でつくられた薄いベニヤを張り合わせた板などの弱い木材で、強い木材となる永く生きた木は、風雨にさらされてきた部分や日あたりのよかった部分などの長年の成長の跡が1本1本の癖となっているため、平均化されて量産住宅用の木材となるのには不向きだと敬遠されて行き場を失い、山に溜まるばかりです。

けれど、天井にも壁にもなって扱いやすいといわれるベニヤの合板などは、木材というよりも合成接着剤の塊ですから、腐っても土に還ることさえできないのだそうで、昔を知る大工は次のようにコメントしています。

「今の家は家とは呼べない。粗大ゴミが家の形をしているだけなんだ。」

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↑家が地球にとって負の遺産となる

そういった板を使って家をつくると呼吸困難に陥るようになってしまったという大工の阿保昭則氏は、素材は家づくりにおいても何よりも大切な要素で、添加物だらけの建材は、ジャンクフードと同じように人の健康を害すのだと述べていますし、確かに、1990年代に問題視され始めたシックハウス症候群や化学物質過敏症といった症状は、自然素材の時代には聞かれないものでした。

添加物だらけの木でできた家も長寿を全うすることなどできず、生まれた瞬間からどんどん弱っていくしかありません。阿保氏に家を依頼したある男性は、そういった家に住むことが普通だと考える消費者に対して次のように問いかけています。

「スーパーで500円の買い物をするときにはすごく考えるのに、家となると安易に流れてしまうのはどうしてなんでしょうか。」

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↑食べ物にはこだわるのに、家は「おまかせ」と注文する

なぜ地球にも人にも害になるようなもので住まいをつくるようなことになっているのかというと、大木の力を生かす技術は大工が何年もの修行時代を越さねば育たず、それを放棄してしまった大工の次の世代はもはや技術を習得するチャンスすらありません。また、高い職人技術に頼らずに建物をつくることができるというのは住宅を量産するのに欠かせない要素だったのです。

武蔵野美術大学教授の原研哉氏は、家を注文する側がサラリーマンになった高度成長以降、大手ハウスメーカーのつくる公団住宅や分譲マンションが「都市型の住まい」という地位を得て、画一化されたそういう家を見分ける指標には価格や「2LDK」などという記号が用いられるようになったと述べていました。

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↑同じような内容だったら値段と間取りで比較するしかない

日本経済がバブルに沸くと、日本の性能のよい自動車・家電の輸出におされていたアメリカは、日本政府にアメリカ産の木材を輸入することを要求し、敗戦以降「木造は一切禁止」という案まで出ていたほど木造に否定的だった日本政府は、木材の国内需要を高めるために建築基準法を改正して「木造ビル」も可能とする中高層の木造建築を許可することとしました。

さらに「木づかい運動」と称して、外国産でも国産でも何でもいいからとにかく木を使うようにという方向に進み始め、それが、木材の質より量を優先するように業界を後押ししているという見方もあります。

そうして続々とアメリカ以外の海外からもやってくるようになった木は、「無垢(むく)」という加工されていない木であっても、長い旅路の間に腐らないよう、防カビや防虫の薬品で「毒漬け」されてあるのだそうです。

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↑日本では樹齢50年の木を売っても大根1本くらいにしかならない

昔は木を伐採した後に何年も何十年もかけて自然乾燥させて木は木材となりましたが、鉄やコンクリートのように大量にすぐに使える建材が一般的となったためか、木材を効率よく流通させられる状態にするために、木をコンクリートの部屋でスチール釜に入れて、100度という高温で乾燥処理されることも必要となりました。

そういった木の様子を見て、「そんなむごいことはできない」と言う伊藤好則氏は、60歳まで経営をしていた電気工事の会社を引退した後、木を天然木の部屋の中で45度で乾燥させる木材乾燥機「愛工房」を発明し、本来の木の素晴らしさを守ろうとしています。

高温処理された木材しか知らない建築業者が伊藤氏のところで木材となった杉をみると、「杉って、こんなにきれいだったんだなあ」とため息をもらすといいますが、木をどのようなものと考えているのかによって出来上がるものはぜんぜん違うのだとして、伊藤氏とともに活動してきたジャーナリストの船瀬俊介氏は次のように述べました。

「一枚の板切れに引かれた木も『生きている』と見るか、『死んでいる』と見るかで、まったく対応は違ってくる。」

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↑「どないしてもいい世界からは文化は生まれません」西岡常一

世界第3位の森林大国で、世界の人口のたった2パーセントが暮らす日本が、世界の3分の1の木材を輸入しているというのは、私たちが木の存在への関心を失って、木材を「死んでいる」モノとみなす社会にしてしまったということなのでしょう。

しかし、確かな品質の木の家に住むことを選んだ人たちが、化学物質過敏症で失っていた人間らしい生活を取り戻し始めたり、また、時間が後ろに流れているかのようなゆったりとした気持ちや、大嫌いだった雨を心地いいと感じる気持ちになるのは気のせいではありません。木材は空気をきれいにする力や人の感性を震わすような力を持っていて、これらが木材の「生きている」証拠なのです。 

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↑木の家に住むだけで風邪も引きにくくなる

静岡大学が行った実験で、木、鉄、そしてコンクリートの3種類の箱で飼育された母親マウスから産まれた子マウスの、23日後の生存率を調べたところ、木箱の母親から生まれた子マウスは鉄の箱の2倍の生存率となり、さらにコンクリートの箱と比べるとなんと12倍の生存率というほど大きな差となりました。

さらに弱った子マウスに対する母親マウスの反応は、木の箱では母親らしく振舞うのに、鉄やコンクリートの箱では子マウスに対して凶暴化するといい、人間社会でもいじめの問題やイライラする人たちが増えているのも、住まいと何か関係があるといえなくはないでしょう。

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↑イライラしている人の背景には灰色のコンクリートが似合う

50年以上のロングセラーとなっているアメリカ生まれの絵本「おおきな木」は、1本のリンゴの木が、一緒に遊んで大きくなった一人の男の子に、次から次へと自分を切り分けていくストーリーです。

リンゴの果実から、家や船を作るための枝や幹までも男の子に与え続けて切り株となったリンゴの木は、最後に年をとった彼を座らせ、「幸せだ」と感じています。

日本人は神様を数えるとき「一柱、二柱」と数えたといいますし、私たちの先祖も、木が切られて柱になってもなお生きて私たちに豊かさを与えてくれる存在であることを知っていたのではないでしょうか。

大工が技術を学べなくなってしまうように、人が本当の木の家を知らなくなることも十分あり得る今、50年後、100年後に子孫の家の柱になるような木を1本世話することを始めるだけで、住まいも人も変わっていける気がします。

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