Good Life Journal

日常生活における「疑問?」を「確信!」へ

うぬぼれない方がいいと思いますよ。おもてなしは日本独自のものではないのですから。

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2020年の東京オリンピックが決まって以来、「所さんのニッポンの出番」や「世界が驚いたニッポン!スゴ〜イデスネ!!視察団」をはじめとするテレビ番組で、外国人に日本を褒めてもらう特集がよく組まれているのを見かけます。

例えば、財布を落としたら必ず戻ってくるといった日本のマナーや気遣いの良さを世界に誇るおもてなし精神だと自分たちでもてはやす風潮が激しくなっていますが、スターバックスコーヒージャパン元CEOの岩田松雄氏は、日本の本来のおもてなしの原点とは人としてどうあるべきかを追求することにあり、今の日本はおもてなしという言葉だけが一人歩きしているとして次のように述べています。

「東京オリンピック決定後の報道で、『おもてなし』が単なる流行語になってしまうのではないかという危うさを感じました。危うさというのは、その本質を見極め、形にする力が今の日本人にあるのかな?という意味での危うさです。」

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↑後に使う人のために自分が使った場所を綺麗にする日本人、その精神は人としてどうあるべきかが原点だった

「あなた、お茶が入ったわよ」という日本語には、お湯を沸かし、急須にお茶の葉を入れ、お茶碗に注ぐといった一連の手間を微塵にも感じさせない、まるでお茶が自然に入ったかのように思わせる不思議な力があり、これは自分のしたことをいっさい言わない、恩に着せるような言い方をしないという日本人の修養だと考えられます。

千利休が大成したした茶の湯では亭主が相手を数時間にわたってもてなす際、その間は絶対に俗世間のことを忘れさせ、主客とも心を裸にして打ち解ける場を創ることに徹するのだそうです。

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↑「あなた、お風呂を沸かせたわよ」ではなく「お風呂が沸いたわよ」、恩着せがましくない言葉によってお風呂の時間もよりリラックスできる

そのような心も身体も気兼ねなく寛げる場所はかつての日本には日常の至る所にあり、高倉健は映画出演を決めた際にすぐさま髪型を相談しに行ったというバーバーショップ佐藤の主人、佐藤英明について、一度切ってもらったらもう他の店には行けないとして次のように述べています。

「安心して、ぐっすりと眠れるんだ。刃物を持った人がそばにいるのに、ぐっすり眠ってしまうなんて不思議だね。サッさんの場合は、刈り方がうまいとか何とかじゃないんだ。佐藤英明という人物と時間を過ごしているのが贅沢なんだ。何と言えばいいか..... つまり、気だと思う。彼からは、気をいただくことができる。」

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↑美容院での最高のおもてなしは、ハサミの音で眠らせてくれること

日本の本来のおもてなしとは誰も見ていなくても実行し、相手に負担をかけることなく、家にいるかのように寛いでもらえるように対応する、そんな高い人格を伴ったものだったはずです。

しかし、この日本の自画自賛の風潮は昨年から中学校の公民の教科書に日本人の助け合いや和の精神を称賛する記述が増えるなど教育の分野にも見られ、自分たちで自分たちのことを優れていると言うのは格好悪いとしてマツコ・デラックスは次のように述べて言います。

「わざわざ教科書で教えることではなくて、ちゃんと大人を見て勉強して、それで自然とやれるようになったものが美徳であったはずなのに、もはやそれができなくなるんだとしたら、恐らく今いいよねって言われている日本人の良さは、20年後30年後はなくなっているんだろうなと思う。」

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↑「つまらない物ですが...」物を渡す時にも謙虚な日本人の姿は20年後にはなくなっているかもしれない

安倍晋三首相は昨年ニューヨークで開催された訪日観光セミナーに参加した際、2020年までに訪日客数を4千万人に増やす意向を発表し、「北海道から沖縄まで、さらに国を挙げておもてなしの態勢を整えている」と観光立国日本をPRしました。

ところが、日本がおもてなしを誇る国として世界にアピールするにはまだまだレベルアップしなければいけない余地はたくさんあり、例えば日本の観光地にはゴミを捨てる場所が少ないため、1日中ゴミを持ったまま観光せざるをえなく、非常に不親切だと感じている外国人はたくさんいます。

食べ物やお土産は買ってもらいたいけれどゴミは違うところまで持っていって捨ててくださいというのは、相手の気持ちに寄りそうおもてなしとは対局にあるご都合主義な考え方で、本来であれば日本にお金を落としてくれるお客様が排出するゴミもフォローするのがおもてなし立国の対応ではないでしょうか。

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↑お土産だけ買ってもらってゴミは他で捨ててくださいというのはおもてなし立国のする対応ではない

日本へ来る外国人や観光客を迎える際、どこにいってもおもてなしを看板にする、そんな言葉だけを飾り立てるのは真のおもてなしではありません。

二人の相撲力士が試合をやってどちらが勝ったかわからない時、その力士たちはどうしているかというと、「今のは自分が勝った」などとは言わず、ただ自分の立つべき場所に立ったまま一言も口を聞こうとしません。そんな彼らの自分の利益になるようなことを言わない奥ゆかしい姿が日本人は好きなはずです。

美輪明宏さんは日本のおもてなしやサービスは、相手がたとえ貧しい人であっても上流階級の人であっても、区別なくちゃんと頭を下げるし、その品質をさらに日進月歩でグレードをあげようと努力していると認めた上で次のように述べています。

「ただね、うぬぼれない方がいいと思いますよ。日本が良いんだという、田舎者がすぐ褒められるとうぬぼれるでしょ?ですから、おもてなしというのにしても、日本独自のものではないですから。そこは謙虚にしておいた方がいい。」

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↑「今のは自分が勝った」ひとたびこの言葉を口に出すと、力士の人気はたちまち消えてなくなる

日本の伝統的な茶時の懐石料理において一汁三菜を食べ終わった後の締めくくりに、炒り米と塩を入れた焦がし湯である湯斗を飯碗と汁椀に注いで飲み、料理を振る舞ってくれた相手に余計な手間を取らせないように器をきれいにするという心配りの礼儀があります。

これは素材に工夫と趣きを加えた和食ならではの旬のおもてなしを自分だけでなく相手も美味しくいただく日本の食礼の基本ですが、広辞苑におもてなしという言葉自体は載っていないにもかかわらず、日本人にこれほど浸透しているのは、和食の作法と同じように日本人がずっと大切にしてきた概念で、言葉にしなくても誰もが自然に行っていたことだからではないでしょうか。

最近では、洋食なのか中華なのかわからないような和食も増え始め、日本の食文化が多様に変化しつつある中、日本人のDNAとも言えるおもてなしを敢えて言葉で表す度に、おもてなしの心さえも日本人から切り離されてしまう気がします。

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↑食べ終わったお椀を綺麗にする、これは料理を作ってくれた人への心配り

石田三成が寺で修行していた頃、突然、豊臣秀吉が訪ねてきて茶を飲みたいと希望したという話があります。

三成が最初の一杯をぬるめに立てて差し出したところ、喉が渇いて疲れていた秀吉にとっては言葉で表すことのできない美味しさが感じられ、もう一杯おかわりを希望された時に熱めのお茶を差し出すと、一杯目のぬるめのお茶とは違った甘さがありとても美味しく飲むことができました。

誰に言われなくても自分のために湯加減を考えてくれた三成に感心した秀吉は、三成を手元に呼び寄せ、武家として暮らしていけるようにしたと言います。

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↑「一杯目はぬるく、二杯目は熱く」三成の出世の秘密は秀吉の求める湯加減の茶を出したこと

おもてなしとは失礼のない心で相手を自然に迎え入れ、さりげない気遣いで湯加減の良いお茶を差し出すようなことであり、わざわざ「これがおもてなしです」などと言ってお茶を出すのはただの押し付けではないでしょうか。

映画監督の宮崎駿さんは映画「風立ちぬ」で主人公を能動的にして「よし僕はやるぞ」と言って設計事務所に入ってくるような人間にしたら、そんなのはちゃんちゃらおかしいとして次のように述べています。

「本当になんかやろうとする人間はね、でかい声で叫ばないですよ。そう思いませんか?人間の脳味噌の中なんか、覗けないですよ。そんなの顔見たってわかりゃしないんです。」

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↑「これが、おもてなしです」なんて、本気で何かをやろうとする人間はでかい声で叫ばない

茶道裏千家第十五代・元家元で紫綬褒章や文化功労者などを受賞している千玄室によると日本文化を代表するわびさびの「わび」とは慢心しない心の美しさ、「さび」とは古びた味わいに美を見出すことであり、これは日本人が文明科学の進んだ欧米に対するアンチテーゼとして、欧米よりも深い哲学と精神性を求めた結果一般化したものです。

20世紀初頭に日本を訪れたドイツ人建築家のブルーノ・タトウは日本の船に乗った時、その清潔さや船員の服装の簡素さ、そして花の形や波の形に畳んである布団を見て、平らな寝床に芸術的な効果をもたらすことができるなんて日本人の船員には浮世絵師の血が流れていると感銘を受けたと言います。

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↑「日本人の船員は、みな浮世絵師」日本の船の清潔さや簡素さにはわびさびが感じられた

今では、わびさびの意味をきちんと説明できる日本人はほとんどいません。

フランスでは高いビルは建てられておらず、石の外観は法律によって保存が義務付けられ、色や素材、そして広告の内容まですべて厳しく取り締まられているのに比べて、京都ではせっかく再生した町屋を壊してマンションを建てようとするなど、日本はわざわざ伝統的価値あるものを潰してファッション感覚で高層マンションを買っており、わびもさびを失った日本人の精神性は地に落ちるばかりでしょう。

おもてなしを日本の誇りだというのであれば、いたずらに国際社会へのパフォーマンスやスローガンを求めるのではなく日本の原点に立ち戻るべきで、失われた20年と呼ばれる時代で失ったのはお金や時間ではなく、日本の誇りだったのかもしれません。

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↑高層マンションの建設は歴史ある建物を潰してでもやるべきことなのか?

長野県には隣三尺という風習があり、これは家の前の雪を片付ける時に自分たちの前だけ綺麗になればいいというのではなく、相手の負担にならない程度に「隣の三尺まで片付けるんだよ」という、ある意味自分にとって無駄に見える行動を人徳とする価値観です。

おもてなしは昔から日本人の日常生活の中に家族や他人に対する振る舞いとして当然のこととして存在していたものであり、おもてなしという言葉自体に権威や正統性を持たせると、ある意味現実そのものには何の価値も生じなくなるでしょう。

タモリさんは言葉とはあらかじめ存在する世界の秩序に付与されていくものであるため、言葉を話せば話すほど言葉にだまされ、ますますわからなくなるとして次のように述べています。

「いまは現実そのものに何の意味もなくなり、言葉だけが意味をもつかのごとく祭りあげられている。だから、言葉は変化しなくなってしまった。これはヤバイ。」

「それならむしろ言葉がないほうがいい。なぜなら、おれたちにとって本来大切なのは、言葉よりも現実。この現実に重みをもたせなければだめだ。」

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↑言葉ではなく、何も言わずに隣の三尺まで掃除するという現実にこそ意味がある

オリコンの「2014年上半期本ランキング」の総合部門で自己啓発書が初めて1位になり、昨年は「嫌われる勇気 自己啓発の源流『アドラー』の教え」が約53.5万部を売り上げるなど、現在、自己啓発や心理学の本が注目を浴びています。

それは、これまでの時代はテレビや車やデザインといった目に見えるものに価値があったのに比べて、これからは心や哲学のような何か目に見えないもの、自分は何をするべきで何が正しいのかということを考える方向に向かっていく現れだと考えられ、日本人の美意識や精神性を司るルーツに目を向ける人も多くなるでしょう。

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↑テレビや車といった目に見えるものから、自分たちのルーツを探る目に見えないものを求める時代へ

「おもてなしニッポン」や「クールジャパン」など、かっこいい日本を世界にアピールする風潮が高まっていますが、かっこいいとは服装や化粧など何か飾り立てた、人工的な見た目のことを表すことが多く、日本人の中に自然に流れているおもてなしの精神とは対局の考え方です。

大自然を目にした時にかっこいいと思う人は少なく、癒されるとか尊厳だと感じるはずで、おもてなしとは決してかっこいいを目指すことではありません。家の玄関に花を一輪飾り、消臭剤の香りではなくお香をたいて訪れてくれる人を招くような、自然な振る舞いこそがおもてなしの真のあり方ではないでしょうか。

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