「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で36年連続で、総合1位を獲得している温泉旅館の加賀屋(石川県)は「おもてなし」の代表格のように思われていますが、加賀屋に勤める前に大手航空会社のキャビンアテンダントであった若女将は、キャビンアテンダントが提供するおもてなしと加賀屋が提供するおもてなしとでは、サービスの質が全然違ったと言います。
客室に案内する合間の簡単なお喋りからできるだけ、お客さんの様子や状況を読み取って、この方に何をしてあげたら喜ぶかだけを一心で考え、カバンから薬を取り出すの見れば、「お水を下さい」と言われる前にさっとお水を用意し、ご飯が少し茶碗に残っている段階で、「まだ、もう少し食べたいな」と思っている丁度のタイミングを見計らって「おかわり、お持ちしましょうか」という声がかかります。
脳科学者の茂木健一郎さんによれば、幸福には2つの種類があり、一つは「何かがあったその瞬間に感じる幸福」で、もう一つは、「あとになって振り返った満足感による幸福」なのだそうですが、最近の研究では「あとになって振り返った満足感による幸福」の方が、重要だということが分かってきています。
もちろん、ご飯が美味しいとか、部屋が豪華であるということは、旅行中の一時的な幸福を生み出しますが、やはり「あとになって振り返った満足感による幸福」というのは、五感では感じとれない、どこか別のところから感じ取るものなのかもしれません。
加賀屋で働く人達は自分たちのことを「心のマッサージ師」だと思っているそうです。
かのピーター・ドラッカーは子供の頃、「君は人生を通じて、何によって覚えられたいか?もし、50歳になってこの問いに答えられなかったら、人生を無駄にしたことになる」とある先生から言われて、その後の人生が大きく変わったと述べていますが、加賀屋で働く人達も、1泊、2泊という短い時間の中であっても、「何によって覚えられたいか」という部分が明確だからこそ、お客さんに伝えられるものがあるのかもしれません。
そうでなければ、お客さんは帰り際に1年後の宿泊の予約なんてしていきませんから。

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